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第16話

「……何か変わった事があったのですか?」  リチャードの問いに、エリックが頷く。 「実は、SNSやマスコミで騒がれるようになってから、像は本当は偽物で売名行為で嘘を流布してるんじゃないか、という批難や中傷が相次ぐようになりまして……それでそういった疑惑を払拭するために、三日前にロンドン大学エジプト考古学研究所のトレヴァー博士に像の解析を依頼したんです。研究所には私が自分で像を持ち込みました。そして昨日の夕方解析が終了しましたので、また自分が行って像を受け取ってきたんです」 「像は本物だったんですか?」 「ええ。詳しい調査結果と正式なレポートが出るのは一週間ほど時間が必要だそうですが、像には何の仕掛けもなく、本物のエジプト像であることはお墨付きを頂けました」 「では、その際に一度エジプト像は博物館の外に出ているんですね?」 「はい。でも僕がきちんと責任を持って持ち帰り、また展示室のガラスケースに戻しました。それだけは確かです」 「それは昨日の何時頃の事ですか?」 「研究所へは4時に引き取りに来るよう言われていましたので、約束通りの時間に行き、ブラックキャブを使って博物館に戻ったのは5時を過ぎていました。閉館時間はすでに過ぎていましたので、裏口から入り、ガラスケースに像を戻して、僕は自宅へ戻りました。いつもは僕が館内の戸締まりをするのですが、この日は遅くなるのが分かっていましたので、館長が代わりに」 「そうですか。では像の盗難についてお話を」 「はい。僕はいつも開館一時間前、朝8時に出勤します。今朝もそうでした。裏口から入り、館内の清掃をするために、まず地上階の展示室Aに入りました。地上階には展示室AとBの二部屋があります。Aには例のエジプト像が置かれていました。それで、いつものように床の掃き掃除をしている際に、何だか違和感を感じてガラスケースをよく見たところ、あのエジプト像が消えている事に気付いたんです」 「ガラスケースは割られていなかったんですか?」 「ガラスケースには何の異変もありませんでした。割られてもいませんし、傷も何もありません。鍵は掛かったままでした。鍵は展示室内に置かれているガラスケース全てに共通の物です。展示室はAからCまで三室ありますので、鍵も3個です。博士がマスターキーを、僕が普段は鍵の管理をしています」 「鍵はどこで保管されていますか?」 「博士のマスターキーは二階書斎の金庫の中に、僕は自宅フラットに毎日持ち帰っています」 「それで、像が無くなっているのを見つけて、どうされたんですか?」 「慌てて博士を呼びに二階の書斎へ行きました。博士はいつもこの時間は書斎にいらっしゃるのを知っていましたから。その後二人で展示室まで降りてきて、僕の鍵でガラスケースを開けました。他の展示物はそのままで、あのエジプト像だけが無くなっていました。僕はどうしたらいいのか分からずに、呆然としていたのですが、博士がすぐに警察へ電話する、と仰ったのでお任せしました」 「エリックの話した通りです。……実は警視総監を個人的に存じておりましてね、それで彼に連絡をさせて貰いました」  今まで黙っていたウィルソン博士が口を開く。 ――なるほど、ハーグリーブス警視総監を個人的に知っていたのか。  それで情報統制が可能だったのか、とリチャードは理解した。

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