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第18話

 リチャードがふと気になってサーシャの方を見ると、彼女は呆れたような顔でアビゲイルの話を聞いた後で口を開く。 「あの……呪いなんて現代の世の中にある訳ないと思うんですけど」  この言葉にアビゲイルはきっ、とキツい目付きでサーシャを睨み付けると、怒鳴るような声で言い返す。 「あんたに何が分かるのよ? 私はね、実際にあの像を見たんだから。あの像は呪われてんのよ」 ――ブルック巡査、さっきまでは呪いを信じてたような事言ってたくせに、一体いつ宗旨替えしたんだ……?  リチャードは二人のやり取りを聞いて、思わず苦笑しそうになる。レイの方を見やると、彼も同じ事を考えていたようで、視線が合った瞬間、彼も苦笑していた。 「ところでエリックさん、こちらの手紙の封筒はどうされましたか?」 「それが……捨ててしまったんです。イタズラだと思ってたので。ただ、イタズラだとは思っていてもやはり気になって、手紙本体だけは引き出しに入れたのですが…今朝まですっかり忘れていました」 「そうですか。こちらはお借りしますが、よろしいですね?」  リチャードは手紙を目の高さに上げてエリックに見せると、有無を言わさぬ態度でそう言う。 「ええ、勿論です」 「それでは、昨夜から今朝にかけてのご家族の行動についてお話頂けますか? まずは博士からお願いします」 「私は昨日はエリックの代わりに博物館を4時に閉館して、鍵のチェックをした後は二階の住居部へ上がり、夕食を6時に取り、食後は書斎で少し仕事をして、9時には休みました。年を取ると夜は早く眠くなるもので……今朝は7時に起きて朝食を食べた後、エリックが呼びに来るまで書斎にいました」 「その間、何か怪しい物音などは聞きませんでしたか?」 「いえ、何も。年を取るにつれて耳が遠くなりましてね……」 「そうですか。では奥様はいかがですか?」  アビゲイルは不躾にじろじろとリチャードとレイに品定めするような視線を投げかけながら、相変わらずの高めのテンションで話し始める。 「私は昨日の昼間はずっと買い物に行ったり、サロンで施術して貰ってたの。その後、レストランで食事して夜10時過ぎに戻ってきたわ。裏口から入って、そのまま自室まで上がってすぐに寝ちゃったから、何にも気付かなかったわね。勿論、物音なんて何も聞いてないわよ。そんなの三階まで聞こえる訳ないもの」 「そうですか、分かりました。そう言えば、この家にはもうお一人いらっしゃいますよね?」 「ああ、私の弟のこと? ジミーなら今朝はどこかに出かけて、まだ戻ってないわよ」  リチャードはその言葉に顔を顰める。  エリックの話によれば、館内の鍵はこじ開けられた様子もなく、窓も閉め切ったままだった。だとすれば、内部にいた人間が一番怪しいではないか。それなのに、怪しまれても不思議じゃない立場の人間が外出したまま、戻らないとはどういう了見なのだ? もしかして彼が犯人で高飛びしたのだろうか?

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