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第19話
「ああ、刑事さん、ジミーなら心配ないわよ。あの子が像を盗んだとか思ってるんでしょうけど、ジミーにはそんな度胸ないから」
アビゲイルがリチャードの考えを見透かしたようにそう言う。
「それにね、ジミーは昨日は私とずっと一緒だったの。買い物付き合って貰って、私がサロンにいた間はどこかに行ってたけど、その後また合流して食事して、それで家に一緒に戻ってきたのよ。彼の部屋は私の隣だから、変な動きしてたら分かるわよ」
「そうですか……分かりました。後でお戻りになったらお話を聞きたいので、そうお伝えください。とりあえず、聞きたい事は以上です。もしも外出されるようでしたら、誰でも構いませんので、METのスタッフに一言伝えて下さい。エリックさん、エジプト像が展示されていた部屋を見せて頂けますか?」
リチャードはソファから立ち上がり、サーシャとレイを促して部屋を出る。
「レイとブルック巡査は先にエリックさんと展示室へ行っていてくれ。俺はちょっとセーラに頼み事があるので、電話したらすぐに行く」
「え? ジョーンズ警部補、この人と二人きりなんて無理です!」
サーシャが思い切り嫌な顔をしてそう言う。レイはそっぽを向いて黙っていた。
「ブルック巡査、二人きりじゃないよ。エリックさんが一緒だろう? それに今展示室では鑑識のスタッフが作業中の筈だ。彼らの仕事ぶりもちゃんと見て勉強してくれ」
リチャードは物わかりの悪い生徒に言い聞かせるようにそう言うと、エリックに向かって「よろしくお願いします」と声をかけて、一足先に階段を下りて一旦館外へ出た。
外へ出ると携帯の短縮ダイヤルを押す。数コールで聞き知った声が出る。
「ハイ、リチャードどうしたの?」
「セーラ、頼みたい事があるんだけど」
「何? バックグラウンドチェック?」
「そう。ウィルソン博士、妻のアビゲイルとその弟ジミー、それから学芸員のエリックについて。特にアビゲイルが博士と結婚した経緯が詳しく知りたい。あと盗難に遭ったエジプト像に、保険金が掛けられてなかったか調べておいてくれないか?」
「了解、すぐにやるわ。それからスペンサー警部から伝言。レイくんは今日はもういいから、そっちの仕事が終わったらギャラリーまで送って行ってあげてくれ、って。リチャードも今日はもうオフィスに戻らなくていいってよ。ブルック巡査だけ署の近くでドロップしたら?」
「分かった。そうさせて貰うよ」
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