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第25話
だが、その前にリチャードの腕が伸びて、レイの手を掴み車内に引き戻す。
「行くなよ」
「……離してよ」
「離さない。レイ座れってば」
「……リチャードはストレートだから、今まで女性としか付き合ったことないから……だから僕は怖いんだよ。だって僕男なんだよ? ねえ、もしブルック巡査に強引に迫られたら拒絶出来る?」
「ブルック巡査は俺の好みのタイプじゃない、って言っただろう?」
「そういう事じゃないんだ。確かに彼女は好みのタイプじゃないかもしれない。だけど、もしも目の前に好みのタイプの女性が現れて、好きだって言われたら……リチャードは断れるの?」
「俺は今レイと付き合ってるんだよ?」
「でも僕と付き合ったのだって、僕が半ば強引にそういう流れを作ったからだろう? リチャード流されやすいから……」
「何で、そんなに俺の気持ちを否定するような事ばっかり言うんだよ?」
リチャードはレイの両肩を掴む。レイはリチャードから顔を背けた。
「レイの事が好きだって言った俺の言葉が信じられない?」
「信じてない訳じゃない」
「じゃ、何で?」
「言っただろう? 僕は怖いんだよ。5年もずっとリチャードの事だけ見てきて……もうリチャード以外の人なんて考えられなくて……付き合って貰えれば、それで安心出来ると思ってた。それで満足出来るって。でも……付き合ったら付き合ったで、今度は、もしもリチャードがやっぱり女の人の方がいいって僕を拒絶したら、って考えると怖くて夜も寝られないんだ……僕が抱いて欲しいって言ったのは、そうすれば……そういう関係になれば、リチャードがずっと僕の側にいてくれるかもしれないって、そう思ったからなんだ。打算的だろ? 幻滅した?」
「幻滅なんてしないよ。俺はレイを拒絶なんてしない。……レイ、俺が何て言えば安心してくれるんだ? 俺はどうすればいい?」
リチャードは顔を背けるレイに必死に語りかける。レイの顔色は血の気が失せて、まるで紙のように真っ白だった。
「俺がレイの事を好きだって言うだけじゃ、それだけじゃ駄目なのか?」
「駄目じゃない。全然駄目なんかじゃない」
レイの瞳から、はらはらと涙が流れ落ちる。
「リチャードを困らせるつもりじゃなかった。これは僕の問題なんだ。そんなの最初から分かってたのに、それなのに、どうしたらいいのか分からないんだ」
リチャードは強引にレイを自分に引き寄せて抱き締める。
「……レイ、俺一目惚れだったんだよ? 今まで言ってなかったけど……」
「……リチャード?」
「初めてギャラリーに行ってレイを見た時、天使がいるって思ったんだ。すごい綺麗な天使が目の前にいるって。その瞬間、心臓を鷲摑みにされたような気がした。……でも、実はそれが一目惚れだったって、気付いたのはずっと後なんだけど」
リチャードはレイの顔を覗き込むと、優しく微笑む。そしてそっと指でレイの頬を流れ落ちる涙を拭ってやる。
「レイは賢すぎるんだよ。考えすぎるから、苦しくなるんだ。俺がレイの事を拒絶なんてする訳ないだろう? 確かに今まで女性としか付き合ったことないし、レイ以外の男とは付き合おうなんて気にはならないけど、だからって俺がレイが男だって理由だけで、見捨てるような真似すると思う? 俺ってそんなに信用ないかな?」
「……」
「俺はレイが好きなんだ。女とか男とか関係ない。レイって人間が好きだから、付き合おうと思った。それだけじゃ充分な理由にならない?」
レイがゆっくりと顔を上げる。涙に濡れた榛色の瞳がじっとリチャードを見つめている。リチャードはレイの顎に手を当てると、少し顔を持ち上げて唇を重ねた。
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