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第29話

 レイにしてみれば、彼の本職のアートディーラーとAACUのコンサルタント業の方が、余程接点が薄く感じているかもしれない。 「なるほどね。……エリックは二年前にたまたま入ったあの博物館で、ウィルソン博士に出会って運命が変わったらしいわ。余程博士の人となりが気に入ったみたいね。最後はアビゲイルの弟、ジミー・ロイド。彼は何をして生計を立ててるのか、ちょっとよく分からなかったの。何だか叩けば埃が出そうだったから前歴者リストを当たってみたんだけど、METおよび英国内の犯罪者データベースの検索には引っ掛かってこなかったわ。かなり怪しいんだけど。……彼はアビゲイルが結婚してすぐに、あの家に転がり込んできたらしいの。何をするでもなく、ぶらぶらしているみたい。アビゲイルは勿論自分の弟に出て行けとは言わないし、博士もああいう人柄だから、出て行ってくれとは言えないでいるみたいね。そのままずるずると、5年間ずっとあの家に住み着いてるらしいわ」 「まるでヒモですね」  サーシャの言葉にセーラが頷く。 「そうね。姉からお小遣い貰って、部屋は無償で提供して貰ってるし、悠々自適の生活してるみたいよ」  リチャードは、ホワイトボードに貼られたジミーの写真を見る。写真の男性は、確かにあまりまともな生き方をしているとは思いがたかった。整髪剤で整えられた黒髪、安っぽい柄物のシャツを着て、肌の色は浅黒く、人を小馬鹿にしたような目付きに、嫌味な笑顔を浮かべた歪んだ口元。何だか人間と言うよりも、どこか爬虫類を想像させる。  彼はアビゲイルの弟だと言うが、まったく似ていなかった。そもそも姉のアビゲイルは整形しているようなので、似ていないのも当たり前なのかもしれない。整形前の顔がもしも弟にそっくりだったら、整形したくなるのも当然かも、とリチャードは密かに思っていた。 「そう言えば、昨日は一日出かけていて会えなかったんだが、その後ジミーは戻ってきたのか?」  リチャードがセーラに問いかけると、彼女は頷く。 「ええ。制服警官から連絡があって、夜遅くに酔って戻ってきたそうよ。話を訊くなら、今日博物館まで出向くか、こっちに連れてくるか早めにした方がいいわね。実は彼の動きにちょっと妙なところがあったから」 「妙な動き?」 「ええ。ジミーはあの盗難に遭ったエジプト像の売却先を探していたのよ」 「売却? 売ろうとしていたのか?」 「そうなの。でもどうやらジミー単独で動いていた訳じゃなくて、どうやら姉のアビゲイルが背後にいたみたいね。ロンドン市内のオークション会社数社とアンティーク店に姉の名前を出してコンタクトを取っていたのが、今のところ分かってるわ」 「やはりジミーがあの像を盗んだのかな……」 「でも売却先を探していたのに、わざわざ盗んだりするかしら?」 「博士が売却を嫌がったので、盗んだ……と言う事はないかな?」 「まあ、確かに博士が売却に諸手を挙げて賛成するとは思えないわね」  セーラが溜息交じりにそう言う。像の売却と盗難がどうしても彼女の中では結びつかなかった。  すると突然サーシャが勢いよく発言した。 「分かりました! 犯人はアビゲイルです!」 「何故?」  リチャードは、サーシャのあまりにも自信満々な言葉に驚いて尋ねる。

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