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第30話
「アビゲイルはお金目当てでウィルソン博士と結婚したものの、カーマイケル卿が亡くなってからはお金に苦労するようになったので、話題になった像の売却を提案しました。そして弟のジミーを使って売却先を探したんです。でも博士はアビゲイルの意思に反して像を売ることには反対だった。だから像を盗んだんです。盗んでおいて、自分は知らん顔のままブラックマーケットにでも流すつもりなんじゃないですか?」
「なるほど、ブラックマーケットに流すという選択肢を忘れていたな」
リチャードがそう言うと、サーシャは得意気な顔で話を続ける。
「ジョーンズ警部補、覚えてますか? 博物館で話を訊いた時、やたらエジプトの呪いだなんだ、って騒いでたじゃないですか。あれは目眩ましの為にしてたに違いないですよ。あんな事を言っておけば『この女性はちょっと頭がおかしいんじゃないか?』って思われて嫌疑外に置かれますからね」
確かにあの時のアビゲイルは必要以上に呪いだ何だ、と大げさに騒いでいたような気がする。サーシャが言う事も一理あるのかもしれない、とリチャードは思った。
だが待てよ、ともう一度考え直す。前日見た監視カメラの映像にはアビゲイルはおろか、人っ子一人映っていなかったではないか。一体どうやって像を盗んだと言うのだ?
そこにレイが口を挟んだ。
「ちょっと皆さんに見て欲しいものがあります」
「何かな?」
レイの言葉にスペンサー警部がすぐに反応する。彼はレイに全幅の信頼を寄せていた。
「博物館の監視カメラの映像です。昨日USBに落として貰ったのを家で見たんですが、ちょっと面白い映像を見つけたので。リチャード、コンピューター借りられる?」
「ああ、いいよ」
そう言ってリチャードはコンピューターのスイッチをONにする。チーム全員が彼のデスクの周りに集まった。
レイはリチャードのデスクの椅子に座ると、USBスティックを差し、ファイルをクリックして、前日博物館でダウンロードした映像を開く。
「博物館内の監視カメラなんですが、どうしようもないくらい旧式なので画像ははっきり言って、すごく悪いです。正直ところどころ何が映ってるのか分からない時もありますし。昨日ダウンロードした映像をチェックしましたが、怪しい人物は誰も映っていませんでした。ただ、一カ所だけちょっと気になる現象があったので、見て欲しいんです」
そう言って、レイは手際よくパソコンを操作する。
側で画面を見ていたスペンサーが苦笑しながら「これは確かに見にくいな」と呟く。
白黒の粗い映像は、目をこらして見ないと何が映っているのか良く分からない。だが、辛抱強くじっと画面を見続けていると、段々目が慣れてきてどんな物が映っているのかが分かってくる。
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