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第32話
「……セーラ、鑑識の結果は出てるかな?」
レイが真後ろに立っていたセーラの方を振り返って尋ねる。
「ええ、今朝鑑識からレポート回ってきたわよ。レイくんは何が知りたいの?」
「ガラスの展示ケースの中に、埃に交じって砂が落ちてなかった?」
セーラは自分のデスクからファイルを取り上げると、数枚の用紙にさっと目を通す。
「レイくん、よく分かったわね。展示ケースの中に、ごく少量だけど砂が落ちていたみたい」
「そうじゃないと、辻褄が合わないんだ」
レイは考え込むような表情になる。リチャードはその横顔を見つめながら、前日彼が本心を思いがけず自分に告げた事を思い出していた。
――まだ、レイは悩んでるんだろうか……
少し伏せられた目元、長い茶色の睫が眦に陰を作る。昨日は彼のこの綺麗な瞳が涙に濡れていたのだ、と思うとリチャードはたまらない気持ちになった。
「リチャード?」
「……ん?」
「何、ぼけっとしてんの? セーラが言った事聞いてた?」
「あ、ごめん。何?」
「しっかりしてよ。セーラ、もう一回言ってくれる?」
レイに注意されて、リチャードは我に返る。仕事中に余計な事を考えている場合じゃなかった。
「鑑識の結果にちょっと面白い事が書いてあるんだけど、あの展示ケースの中に、埃の他に少量の砂、それから炭化した紙があったそうなの」
「炭化した? 燃えた紙ということか?」
「それが発光現象の原因だと思う」
レイははっきりとそう言った。彼の中ではすでにもう明確な答えが出ているのだろう。その表情は自信に満ちていた。
「全然何のことだかさっぱり分からないんですけど。何かが光ってたとして、それもアビゲイルの仕業なんじゃないんですか? 一番動機が強いのは彼女じゃないですか」
サーシャが少し声を荒げて言う。レイばかりが注目されるのが、どうにも彼女には我慢がならないらしい。
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