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第35話

「気付かなかったの? あの二人は姉弟じゃないよ」 「え?」  リチャードが驚いて、レイをまじまじと見つめる。 「どう考えたって、あの二人が姉弟の訳ないじゃないか。似ても似つかない上に姉弟で買い物行ったり食事したりする? あの年で? しかもアビゲイルは夫である博士とは別の階の部屋なのに、弟のジミーとは隣室なんだよ? 多分あの二人は恋人同士だと思う」 「……博士は知ってるのか?」  リチャードはアビゲイルに嫌悪感を感じていた。あんな人の良さそうな老人を騙して、自分だけ上手くやってるなんてひどい人間だ、と口に出しかけて止める。それは単に自分の個人的な感傷に過ぎない。今は冷静に事件に向き合う時間だ。 「博士は全て承知の上で、彼女の浪費もジミーの件も許してるんじゃないかな。カーマイケル卿には恩義を感じてるだろうから」  レイは感情を込めずにそう答えた。彼も本音はアビゲイルのような人間は許せない筈だ。だが今はプロフェッショナルとして事件に携わっている。そういう時のレイは、個人的な感情は一切見せない。 「脅迫状の件はアビゲイルが犯人だったとして、じゃあ像を盗んだのは一体誰なんだ?」  リチャードの問いに対して、レイは口の端に笑みを浮かべる。 「あのエジプト像は最初から盗まれてなかったんだ」 「……盗まれてなかった?」  リチャードだけでなく、その場にいた全員がレイの答えに驚く。 「どういうこと? だって、実際に像はなくなってたんでしょう?」  サーシャがレイに詰め寄る。 「あのガラスの展示ケースの中に、本物の像はなかったって事だよ」 「本物の像? じゃあ展示されていたのは偽物の像だったって事か?」 「まあ、端的に言えばね」 「でも、偽物だったとしても、展示ケースの中から消えたのは事実だろう? 一体どうやって?」 「それがあの発光現象の正体だよ。思い出してよ、あのガラスの展示ケースの中にずっと像はあった訳じゃない。一度外に出た時があっただろう?」 「……エジプト考古学研究所に解析に持ち込まれた、あの時か!」 「そう。あの時に像はすり替えられたんだ」 「だとすれば犯人は……」

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