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第36話

「エリックだよ。彼が像をすり替えたんだ。エジプト考古学研究所に持ち込んだ像は勿論本物だった。でも持ち帰って来てから、ガラスケースの中に戻す時に、偽物とすり替えたんだよ。偽物の像は紙で出来た張りぼてのような物だったんじゃないかな。その張りぼて像全体にマグネシウムが振りかけられていたんだ。像は回転するタイマーのダイヤルに載せられて、時間が来ると水入りの皿のような物の上に倒れる仕組みになっていた」 「それが発光現象の正体だったのか」  リチャードは納得いった顔でレイの説明を聞いていたが、後の人間は雲に包まれたような表情だった。サーシャが堪らずに口を挟む。 「話が全然見えないんですけど。一体その発光現象の正体は何なんですか?」 「マグネシウムは水分に触れると急激に熱を発して激しく発火するんだ。張りぼて像に振りかけられたマグネシウムと水が化学反応を起こしたことで、紙で出来た張りぼて像は一瞬で燃え尽きたんだろう。発火現象自体はすぐに止むし、ガラスケース内に他に燃焼する物質がないから、危険度は低かった。だけど念のために張りぼて像の中には砂が入れられていたんだ。ガラスケース内に残っていた砂、あれは重しと消火用のためだったんだよ」 「炭化した紙と砂はそういう意味だったのか……」 「そう。エリックはあの博物館の学芸員になる前は、大学でサイエンスを専攻してたんだろう? これくらいの知識はあって当然だと思うけど」  レイはあの一瞬の白い光の画像を見ただけで、ここまでの謎を解いたのか、とリチャードは内心舌を巻いていた。 「エリックは朝になって博物館に出勤してから、自分が作った仕掛けが成功していることを確認して、証人になって貰うためにガラスケースには一切触れることなく、まずはウィルソン博士を呼びに行ったんだ」 「でも、ウィルソン博士の目の前で初めてガラスケースを開けたとして、博士が仕掛けに気付いたりしなかったのかしら?」  セーラが疑問を呈する。 「それだよ。リチャードとブルック巡査は実際にウィルソン博士に会ったから気付いたんじゃないの? 彼の異変に」 「異変? どこもおかしくなかったと思うけど……」  サーシャは眉を潜めてレイを見る。彼女は何も思い浮かばないらしい。

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