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第37話
リチャードは博物館で博士に会った時の様子を思い出していた。どこか焦点が合っていないようなぼんやりとした表情。一瞬痴呆症なのか、と思ったが、受け答えはしっかりしていたから、そうではないらしい……では一体彼の様子の何に違和感を感じたのだろう?
「視線がおかしかったような気がする」
リチャードは気付いた。自分が話していた時も、博士はどこか遠くを見ているような感じだった。視点がはっきりと合っていなかったのだ。
「多分、ウィルソン博士は老人性の白内障を患ってると思う。あんまりよく見えてないんだよ。だからエリックがおかしな動きをしていたとしても、博士はまったく気付かなかったんだ。エリックはその事を知っていたから、こんな大胆な犯行を計画したんだと思う」
「じゃあ、エリックは博士の目の前で仕掛けを回収したってことなのか?」
「それしか考えられない。だって監視カメラの映像では、博士が来るまでエリックはガラスケースにはまったく手を触れていなかったんだよ? 仕掛けって言ったって、あのガラスケースに残っていたのは、タイマーと水が入ってた小皿だけだ。そんなに大きな物じゃないから、こっそり取り出してポケットにでも入れてしまえば分からない。後に残った紙の燃え滓と少量の砂は、埃に紛れて分からないと思ったんだろう」
「でも、何故エリックはそんな事をしたんだ?」
スペンサーがレイに尋ねる。
「そうよ。だってエリックはあの博物館の学芸員で、博物館がなくなったら困るんじゃないの? 像が盗難に遭って一番困るのは博士やエリックよね?」
サーシャも続けて疑問を口にした。
「エリックは博物館を大切に思ってたからこそ、こんな犯行を思い付いたんだよ」
「どうして? 逆効果にしかならないじゃない」
レイはサーシャをちらり、と見やってから口を開いた。
「像を売却させないようにするためだよ」
「アビゲイルから像を守ろうとしたのか……」
リチャードには、やっとこの犯行の全体像が見えてきていた。
「その通り。アビゲイルはあの像を売却してお金を手に入れたがっていた。ジミーを使って売却先までこっそり探させて。そんな動きをエリックが見過ごす訳がない。どうしたらいいのか、と考えている時に脅迫状を受け取ったんだ。それでその機会を利用することにした」
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