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第38話

「エリックは脅迫状の差出人を知っていたのか?」 「多分ね。だから急いで事を起こす必要があった。アビゲイルもジミーも、脅迫状なんて出すくらい切羽詰まってるんだと気付いたから。彼はエジプト考古学研究室のトレヴァー博士に急遽連絡を取って、像の解析を依頼した。ガラスの展示ケースから像を取り出す機会を得るために。彼にはあの像が本物で、何の種も仕掛けもないことは最初から分かってたんだ」 「一つ聞いてもいいかしら? あの像が自分で勝手に回転していたのはどうしてなの? エリックが種も仕掛けもないことを知ってたってことは、回転する理由を知っていたってことよね?」 「セーラが言う通りだよ。エリックは回転する理由をちゃんと知ってたんだ。あの回転の原因は博物館の位置にあるんだよ」 「博物館の位置?」 「そう。あの像が置かれていた展示室が面しているのは、ロンドン市内の中心部を通るメインストリートの一つで、二十四時間常に交通量が多いんだ。日中は一般車が多いが、深夜から早朝にかけては物流関係の車両数が増える。つまり大体一定の交通量があるんだ。その車が走る際に起こす振動が、像を回転させていたんだよ」 「車の振動で像が回転? 信じられない!」  サーシャが驚いて声を上げる。 「信じられなくても、それが真実なんだ。他の展示物が動かずに、たまたまあの像だけが動いたのは、置かれていた場所や像の大きさ、材質などの偶然が重なった産物だったんだと思う。サイエンスを専攻していたエリックは、見てすぐに気付いたに違いない。だけど彼はその偶然の産物をそのままにしておくつもりはなかった。彼はその現象を博物館の集客に繋げようとしたんだ」 「それがあの動画だったのか」 「SNSに話題を流した最初の人物もエリックだよ。彼が噂の仕掛け人だったんだ。あの動画を見せた時に僕言ったよね? 24時間どうやって動画を撮影したんだろう? って。エリックが撮影したんだったら、何の問題もないんだ。逆にあの動画を撮影出来るのはエリックしかいないんだよ」 「それじゃ、あの像は今一体どこに……?」

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