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1 事後報告は恋のはじまり!?④
「社長」
仰々しく権藤が差し出したのは、いかにも高級な黒革のキーケースだ。
「リムジンで……と約束したが、お前を助手席に乗せたくなった」
艶やかに……
流し見る闇色の双眸に、頷く事しかできない。
「いいな?」
口調こそ尋ねているけれど。
選択肢は一つだけ。
限りなく強制に近い約束だ。
「いい子だね」
大きな手が二度、頭を撫でた。
(あっ……)
カツン
靴底が床に当たった。脇腹から離れた腕。
両足が地面を踏む。
「参りましょう、佑都様」
見上げた横顔に、胸ポケットから取り出した縁のない眼鏡が光った。
「……佐伯?」
「はい。裏社会の頂点に立つ男は、なにかと物騒な事案に巻き込まれる可能性が高いので。空港を出ました後は『佐伯』として、佑都様に付き添わせていただきます」
「そう……なんだ」
なんだろう。
俺の隣にいるのは、藤弥さんであって藤弥さんでない。
藤弥さんだけど……
この感覚は、なんだろう……
佐伯と藤弥……さんは、同じ人なのに。
「ほかの者には任せられません。あなたをお守りするのは、私です」
「あっ……」
俺はこの兄の遥かに度を超した執着愛から逃れるため、飛行機を1便ずらたんだ。
しかし。
当の本人、俺の隣のシート
有能秘書・佐伯として、フライトに同行していた。
そこまでやるかッ、普通
否。
普通じゃない!!
兄の俺への執着は!!
どうしたって
どう画策したって
逃れられない定め
兄は全て見透かしていたんだ。
俺の思考、行動パターン
全部!
裏をかいたつもりが……
「裏社会の頂点に立つとは、そういう事です。相手の裏の裏をかき、尚且つ泳がせる余裕がなければ、支配は成立しませんよ」
ムムムぅ~、この男は。
佐伯に成りすまして、俺は……俺は……
弄ばれていた!
逃げたつもりが、隣にずっと居たなんて。
これは新手且つ陰湿な……
(アニアニ詐欺じゃないかーッ!)
「機内であなたの寝顔も見られて、楽しかったですよ♪」
髪を撫でて、誰にも見えない角度で髪に口づけを落とす。
(やられた)
悲しいかな。
俺は有能秘書・佐伯……否!天見 藤弥社長の手の上で転がされていたんだ。
(ムゥッ、ムゥッ、ムゥゥーッ)
ふつふつ怒りが込み上げてくる。
「耳まで赤いですね。私に欲情しているのですか」
慇懃無礼な有能秘書・佐伯。
口調は違っても中身は同じだー!!
耳が赤いのは怒りの証。
見ろ、肩も震えているじゃないか。
佐伯!
否、天見 藤弥社長!
(どちらでもいいわ)
レンズの奥の目は節穴か。
その眼鏡はなんのためにかけている?
「もちろん……」
形良い唇が吊り上がる。
「あなたを萌えキュンさせるためです」
「………………は?」
指先がクイっと縁のないレンズを押し上げた。
「眼鏡男子は好きですか?」
大嫌いィィィー♠
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