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4 そんなの、ほんとうに!!①
なぜ
どうして
なにが起こった?
頭の中がグルグル回る。
思考が追いつかない。
俺の身に、なにが起きている?
シートに背中を押し付けられている。
肩を掴まれて、押さえられて動けない。
俺の上で、男が馬乗りになっている。
リムジンの運転手だ。
熱い。
熱の塊が当たっている。
ゴリゴリ
股間の硬いソレが。
(興奮しているじゃないか!)
マスクの下で荒い息遣いが聞こえる。
眼鏡の奥、欲情の目が俺を捕らえて見つめている。
気持ち悪い!
こんな男に、こんな奴にッ
これから体を撫でられて、さすられて、揉まれて、舐められて。たぎる性欲の象徴を俺の中に挿れられて、掻き回されて、穿たれて、腰を振って欲望を吐き出される。
(気持ち悪い!嫌だ!)
息を掛けられるのも。
同じ空気を吸うのも。
気持ち悪い!
心臓が打ちつける。
警鐘を鳴らす。
怖い。
逃げなければ。
でも、どうやって。
唯一の脱出口である車外へのドアは、男の体で塞がれている。
どんなに身をよじろうとも、ビクともしない。腕がこんなに重いなんて。
「アっ」
ふとした拍子に、握っていたハンカチが落ちてしまった。
(それはっ)
腕を伸ばす。
しかし男はまるで頑強な手枷のようだ。
腕を伸ばす事も許してくれない。
どんなに暴れようとも。足掻いても、足掻いても。
届かない。
視線だけで追う。
手から滑り落ちたハンカチを。
藤弥さん!
あなたのっ
「そんな物に目をくれないでください」
「なにがそんな物だッ!」
藤弥さんと俺を結ぶ、たった一つの……
「大切なッ!」
「あなたの涙を拭うのは、そんなハンカチじゃない」
運転手の手から、白い手袋が外された。
………マスクも
「あなたの涙を拭うのは、私の手です」
運転手の頭から帽子が落ちた。
オールバックの髪が、額に掛かった。
艶やかな黒髪が……
なんでっ!!
どうしてっ!!
お前はァァァァーッ
否、あなたは!
「有能秘書・佐伯ィィィィ~~★★★」
チュッ
「これは失敬」
口許が優雅な微笑みを刻んだ。
「訂正いたします。あなたの涙を拭うのは、私の手と唇です」
………チュッ♥
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