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6 万事休す!!①

舌が…… 口の中にいる。 俺じゃない舌が、俺の口の中に…… あなたがいて…… あなたの舌が俺を絡めとる。上顎も下顎もつついて、舐めて、舌の根元から持ち上げて。 強引なのくせに、唾液ごと俺を慈しむ。 戸惑う俺をすくい取る。 優しくて、意地悪で、ドキドキ鼓動が鳴るのはあなたのせい。 心臓の音、聞こえていないかな。 ドクン、ドクン ドキン、ドキン 心臓に合わせて、チュプチュプ、チャプチャプ 口の中で重なる舌の上で唾液が鳴ってる。 恥ずかしくて、熱を持ってしまった頬をあなたの手が包んでくれる。 意地悪なのに…… 優しくて。 ほんとの天使なのかな……って。 思ってしまう。 「………おにいちゃん」 フヒアー!! 悲鳴はキスに飲み込まれたけどっ (なんで俺、藤弥さんをお兄ちゃんなんて) 呼んだんだァァァーッ★ 逃げたい!! 今すぐ逃げ出したい!! (ここから今すぐ立ち去りたいー!!) ガシイッ 強靭な掌が俺の頬を包んでいる。 離さない。 離れない。 がんじがらめ。 身動きひとつ取れない。 視線さえ動かせない。 瞳が、あなたの深い闇色の双眸に絡めとられている。 「ととと、とうやさ……」 「ちがう!」 「へ?」 じゃあ。 「くみちょう」 「そうじゃない!」 あぁ、そうか。 「社長」 「そうじゃないよ!!」 ヒッ 藤弥さんが怒っている。 「天見会総代……そうでなければ代表取締役」 「そうじゃないんだよ!!」 ヒィッ 藤弥さんが本気で怒っている。 「もう一度、呼んでくれないか」 瞳が俺を離さない。 「私を……『お兄ちゃん』と」 ヒィィーッ!! 「呼べないっ」 恥ずかしすぎる。 「私の中で脳内再生している。エンドレスリピートだ」 「今すぐ止めろーッ!」 「できない」 「しろ」 「できないよ」 「そこをなんとか!」 「お前のお股を拭くなんてできない!!」 「………」 「………」 「えっ……と~」 濡れ濡れグショグショの俺の股間、拭くのを諦めたみたいだから……助かったんだよね。 「お前のお股はもう拭けない!!」 なんだかよく分からないけど、九死に一生を得た。 「剃る!!」 「ハァアアアー??」 なんて言った? 組長ォォォー? 「お前の股ぐらの毛を全部剃る!!」 「なんでー??」 俺の動きは視線に至るまで封じられている。 (逃げなければ) 脳裏が警鐘を鳴らしている。 けれども。 動けないのだ。 体が燃えるように熱い。 ガクガク、ブルブル…… 心臓が悲鳴を上げているのに。 漆黒の眼差しの奥に灯る欲情の火に、身を焼かれている。 頬を包むあなたの体温が熱い。 あなたの熱視線から逃れられない。 「中学生だったか……私達が出逢った時、お前がもう大きくなっていたね。 やり直さないか。本当の兄弟のように」 漆黒の眼差しを柔らかに細めた。 「出逢う以前のお前を知りたい。私の知らないお前を、私のものにしたい」 大きな掌が頬を撫でた。 「幼いお前を見せておくれ」 そう……… 「下の毛の生え揃わない、あの頃のお前を」 ………ようやく気づいた。 俺は『万事休す』のスイッチを押してしまったのだ。 「組長ォォォオーーッ!!」 「お兄ちゃんだよ♪」

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