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第5話

 リチャードは、ギャラリー内に展示されている彼女の作品をぐるりと見回す。  まるでマッチ棒のような白い人型の作品が、あちらこちらに飾られていた。 ――あんな枝を組み合わせたみたいな人形の作品に、筋肉なんて関係あるのか?  リチャードにはまったく理解出来ない世界だ。彼は困り果てて、レイに助けを求める視線を投げる。 「リチャードのこと、苛めないでよ。彼固まっちゃってるよ?」  レイがマイラにそう言うと、彼女はようやくリチャードを触る手を止めた。 「あら、ごめんなさいね。あんまりにも素敵だったから、つい調子に乗っちゃったわ。……ねえ、あなた付き合ってる人いるの?」  媚びを売るような表情で、マイラがリチャードに尋ねる。 「駄目だよ。リチャードはもう売約済みだから」  すかさずレイがリチャードの代わりに答える。 「……レイ、私はリチャードに訊いたのよ?」  マイラは呆れた顔をしてレイに言う。 「付き合ってる人がいても、ちょっとぐらいいいわよねえ?」  そう続けて、マイラはリチャードに流し目をくれる。隙あらばリチャードを落とそう、と言わんばかりの勢いだ。  リチャードはどうあしらって良いのか分からず、黙り込んでしまう。  彼女はレイの大事なクライアントで、今夜のパーティの主役だ。怒らせたり、気を悪くさせてしまうような真似だけは避けなければならない。  リチャードは、何とかこの場を取り繕い逃げることにした。 「あの、ちょっと暑いんで、外の空気吸ってきます」  そそくさと挨拶すると、マイラの追求を振り切り、ギャラリーの外へ出ようと背を向けた。後ろでレイが何か言っていたような気がしたが、それを聞いている心の余裕はまったくない。そのまま立ち止まることなく、人を掻き分けてその場を離れた。  ガラスドアを開けて外へ出ると、ひんやりとした夜気が気持ち良かった。  火照った体が冷やされて、ようやく人心地つく。 ――どうなる事かと思った。  額に手をやると、ぐっしょりと汗で濡れていた。 ――売約済み、か。  アートディーラーのレイらしい表現の仕方だな、とリチャードは思い自然と笑みが浮かんだ。そんな風に自分の立場を説明されたことがないので、どこか新鮮な気がする。

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