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第8話

「ジョーンズ警部補、いらしてたんですね」  レイの従兄弟のローリー・メイヤーだった。彼はこのギャラリーのアシスタントディレクターを勤めていて、有能な彼が実質普段はこのギャラリーを運営しているようなものだった。 「こんばんは、お邪魔してます」 「レイに呼ばれたんでしょう? すみません、いつもお忙しいのに顔を出して頂いて」  ローリーはリチャードに右手を差し出して挨拶をする。リチャードは軽くローリーの手を握り返した。ローリーはそのまま、リチャードの隣で立ち話を始める。 「いつも義理堅く顔を出して頂かなくてもいいんですよ? あなたを誘ってるのは、レイの我が儘にすぎませんから」 「いえ、いいんです。これも仕事の一環だと思って来ていますから」 「ジョーンズ警部補は、本当に職務熱心な方ですね。今までの担当者とはえらい違いだ。レイがあなたに夢中になる気持ちも分かります」 「え?」  思わずリチャードは声を出してしまってから、しまった、と思ってローリーから視線を逸らす。おかしな反応をして彼に疑惑を持たれてはいけない。  幸い人々の賑やかな声のお陰で、リチャードの返事はかき消されていたらしく、ローリーはまったく気付かない様子で話を続ける。 「本当はこういうの、好きじゃないんでしょう?」  そう言いながら、ローリーは手を軽く挙げて、近くを通りかかったスタッフを呼び止める。スタッフはシャンパン入りのトレイをローリーに差し出した。彼は二つフルートグラスを取り上げると、右手に持っていた方のグラスをリチャードに渡す。 「苦手だって、顔に書いてますよ」  ローリーは正面を向いたまま、ちらりと視線だけリチャードの方へ向けて、そう言った。 「あ、分かりますか?」  リチャードは苦笑して言う。  流石レイの従兄弟だ。察しがいいな、とリチャードは思っていた。  ブルネットの柔らかそうな髪を少しだけ長く伸ばして、黒縁眼鏡の奥の知的な茶色い瞳が印象的な彼は、従兄弟なだけあって、どこか雰囲気がレイに似ていた。そのせいなのか、リチャードはこの年上の従兄に好意を持っていた。 「無理なさらなくていいんですよ? レイに誘われると断れなくて、渋々いらしてるんじゃありませんか?」 「いえ、渋々なんて事は……」 「ジョーンズ警部補はレイに甘いですね」  ローリーはそう言うと、リチャードの方を向いて微笑む。

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