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第9話

リチャードはなんと言っていいのか分からず、少し間を置いてから鸚鵡返しに返答する。 「甘いでしょうか……?」 「ええ。……前任者がひどすぎましたから。レイにしてみるとあなたのような人が来てくれて嬉しいんだと思いますよ。だからあなたにとても良く懐いている」  ローリーはグラスに口を付ける。 「その件に関しては本当に申し訳なく思っています……だからせめてもの罪滅ぼしに、彼にしてあげられることがあれば、といつも思っているのですが」 「ジョーンズ警部補は、本当に良い方ですね。警察官とはとても思えないな……なんて言うのは、親類に警視総監がいる人間が言う言葉じゃありませんね」 「……」 「すみません、あなたを困らせるつもりはないんですよ。でも、ジョーンズ警部補は正直な方だから、つい苛めたくなる」  ローリーはそう言うと、ぐいっとシャンパンを呷ってグラスを空ける。そして、おもむろにリチャードの方を向くと、真面目な顔でこう言った。 「レイをよろしくお願いします」 「……ローリーさん?」 「あの子は我が儘なところがあるから、きっとあなたを普段から困らせてると思いますけど、前にも言った通り、本当はいい子なんです。あなたなら分かってくれる、僕はそう信じてますから」 「そんなお願いされるような身分じゃないですから……俺の方が、逆に彼にはいつも世話になっていて……」 「それは仕事上の話でしょう? 僕が言ってるのは、プライベートでの事ですよ」  リチャードはローリーの会話がどこへ向うのかが分からず、答えに詰まる。一体ローリーは、どこまで自分たち二人の関係を知っているのだろう? リチャードには彼の真意の程が分からなかった。 「オフの日もジョーンズ警部補はレイの面倒を見てくれて、僕としては本当にありがたいんです。彼はあんな風に常に人に囲まれる生活を送っていますけど、本当の意味での友人はいないんじゃないかな。何でも話せる気心知れた友人は。今までは僕がその代わりをしてました。ジョーンズ警部補はご存知でしょうけど、僕たちは一緒に育てられてきましたから。でもいい加減、他人とも上手く付き合ってくれるようになって貰わないと」 「レイは上手に人付き合いしてますよ?」 「違うんです。僕が言ってるのは、本音で付き合える友人を作って欲しいって事なんです。そういう意味で、あなたは最適だ。正直で実直で誠実。頭もいい。さっきも言いましたけど、レイがあなたに夢中になる気持ちが分かります」 「褒めすぎですよ……」 「本当の事です。そうじゃなかったら、嫌がるあなたを無理矢理パーティーに呼んだりしませんよ、彼は」 「どういう意味ですか?」 「レイはあなたに自分が住んでいる虚構の世界を見て欲しいと思ってる。その上であなたにそんな自分自身を理解して欲しいと願ってる」 「よく……分からないんですが」 「つまり彼が普段住んでいるのは、彼が作り出した紛い物の世界だって事です。本当の彼は、そんな紛い物の世界にあるガラスの空虚な箱の中にいるんですよ。あなたに救い出して欲しい、そう思ってるんじゃないかな」

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