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第10話

 ローリーはスタッフを再度呼び止め、新しいグラスを手に取る。 「僕の話は、抽象的過ぎて分かりにくいですか?」 「いえ……」 「言ったでしょう? ジョーンズ警部補は頭の良い方だ。僕が言った言葉はちゃんと理解してる。レイには身近にそういう人が必要なんです。だからあなたがAACUに来てくれて、僕も良かったと思ってるんですよ」 「買い被り過ぎです」 「いや、僕は自分で言うのも何ですけど、人を見る目はあると思ってます。あなたは僕の眼鏡に適ったレイの唯一のお相手だ。本当に初めてなんですよ。そんな人が彼の目の前に現れたのは。彼は幸せだ。あなたみたいな人に出会えて」  そう言ったローリーの表情は、少し寂し気にも見えた。 「僕にそんな事を言われて迷惑ですか?」 「そんなことありません。却って俺があなたやレイに迷惑を掛けてるんじゃないか、っていつも心配で……」 「大丈夫です。心配する必要はまったくありませんよ。これからも仲良くしてやって下さい」  ローリーはそう言うと、リチャードの手からグラスをさっと取り上げた。 「新しいのにしましょう」  そう言って手を軽く挙げシャンパンを配っているスタッフを呼ぶと、新しいグラスを一つ取ってリチャードに渡す。 「ジョーンズ警部補、すみません。お喋りが過ぎましたね」 「いいえ。……いつもパーティでは誰にも相手にして貰えなくて、ぼんやりしてることが多いし、話し相手になって頂けて良かったです」  リチャードがそう言うと、ローリーは彼の顔をまじまじと見つめた後、ぷっと小さく吹き出して「やっぱり、あなたはいい人だ」と言った。 「俺、何かおかしな事言いましたか?」 「気を悪くさせたら、すみません。あなたを貶そうとか、そういうつもりは毛頭ありませんから。ジョーンズ警部補は全く気付かれてないようですが、パーティーであなたと話してみたいと思ってる人が大勢いるんですよ。だけど皆さん、どこか近寄りがたい雰囲気をお持ちのあなたに躊躇してるんです。もっと肩の力を抜いて下さい。人脈作りが仕事の一環だと思われてるなら尚更です」 「はあ……」 「ちょっと、ローリー、何かリチャードに余計な事吹き込んでるんじゃないの?」  後ろで声がして振り返ると、ローリーを睨み付けるような表情でレイが立っていた。 「お邪魔虫は退散することにします」  そう言って、ローリーはその場をそそくさと離れようとする。 「ローリー、もうパーティはお開きにするから、お客さんに挨拶して回ってくれる?」 「今日はいつもより早くない?」 「朝からコンサルタントの仕事でMETに行ったから、疲れたんだよ。僕もう部屋に上がるから、適当に終わらせておいて。片付けはスタッフにお願いしていいから。ローリーは明日の朝10時半にギャラリー開けてね。よろしく」 「OK、分かったよ。レイ、お疲れ」  レイは後ろを振り返りもせず、ギャラリーを出る。リチャードは慌てて彼の後ろ姿を追った。  ローリーは仕方ないな、という顔をしてレイを見送ると、ギャラリー内の客達に愛想良く挨拶を始めた。

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