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第11話

 リチャードがギャラリーを出ると、レイは建物の角を曲がるところだった。 「レイ」  リチャードは駆け寄ると、レイの腕を取って引き止める。 「どうしたんだ?」 「……リチャード、帰るなら別に構わないから」 「何言ってるんだ?」 「帰りたかったら帰ってもいい、って言ったんだ」 「そんな突然帰っていいなんて言い出して……俺に今晩家に泊まれって言ったのレイだろ?」 「そうだけど……」 「じゃあ、なんで?」  リチャードは詰問口調でレイに問いかける。レイは自信なさげに俯き小声で尋ねる。 「……本当にいいの? リチャード、嫌じゃない? 僕すごく不安なんだ」 「いいって言っただろ? 嫌だったら最初から断ってるよ」 「どうしよう、僕すごく緊張して……どうしていいのか、分からない」  レイは顔を上げて、リチャードを見つめた。榛色の瞳が街灯の光で微かに揺らめく。彼の瞳の中に迷いがあった。 「……とりあえず、部屋に行こう?」 「うん……」  建物の裏側に回ると、黒いアイアン製の洒落たデザインのゲートがあり、そこを開けて階段を数段上がったところにダークグレーのドアがある。白い建物にダークグレーのカラーが映えていた。  レイはポケットからキーリングを取り出し、鍵穴に鍵を差し込もうとして、落としてしまう。  かちゃん、と鍵の落ちた音が周囲にやけに大きく響く。 「……ごめん、手が震えて上手く出来ない」  そう言ったレイの声も震えていた。  リチャードは黙ったまま、代わりに鍵を拾うと鍵穴に差し込みドアを開けてやる。  ドアを開けた瞬間、ギャラリーに使っている部屋の方から、賑やかな人の声が漏れ聞こえてきた。まだ完全にお開きとまでは行っていないようだ。  入ったところはホールウェイで、ヴィクトリアン建築にしては天井が高い。よく見ると吹き抜けに改装してあった。上からはクラシカルなタイプのシャンデリアが吊り下がっている。きっとレイの事なので、ガラス製ではなく、こだわってクリスタル製のものにしているのではないか、とリチャードは思う。 「こっち」  レイはリチャードの手を引いて、ホールウェイを通り過ぎ、階段を上がる。 「1階はキッチンとダイニング、それとリヴィングルーム。2階にベッドルームとバスルームがあるから」

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