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第12話

 二人は1階を通り過ぎて、2階へ向かう。   2階まで上がりきると、右手に壁が一面曇りガラスになっている部屋がある。その並びには、黒く塗られた木枠の上部半分にだけ、細やかな柄のステンドグラスが嵌め込まれたドアがあった。 「……ここベッドルーム」  レイはリチャードの顔を見ずに、小さな声で呟くようにそう言ってドアノブを回す。  ドアを開けて中に入ると、白く美しいヴィクトリアン様式の部屋の内装に、グレイを基調としたモダンなインテリアが置かれていた。  部屋の右手の壁側には、大きなキングサイズのベッドがあり、ベッドリネンは白とグレイのものが使われている。ベッドの足元側に置かれたソファは、グレイカラーでヴェルヴェットの三人掛けの物、コーヒーテーブルはガラス製のシンプルなデザインだった。テーブルの上には何冊か分厚いアート本が積み重ねられている。入って左手にドアがあるのはバスルームだろうか。このドアもグレイカラーに塗られている。部屋の中で使われているグレイカラーは少しずつトーンが違っていて、レイのセンスの良さが感じられた。  ドアを入って正面には、大きめに取られた窓が4つ。窓は鎧戸が開いたままになっていて、外の街灯の明りが差し込んでいる。  薄明かりの中、レイは落ち着かない様子でもじもじとしている。リチャードは後ろからそんなレイを抱き締めた。 「……落ち着いて」 「……駄目、僕すごく緊張してる」  普段とは全く違った様子のレイに、正直リチャードは驚いていた。  いつもの彼は自信家で、居丈高で傲慢で、誰も近寄れないような華やかな空気を纏っているのに、今この瞬間、リチャードの腕の中にいるのは、まるで生まれたばかりの子羊のように怯え、戸惑っている華奢な青年だった。  リチャードはレイの耳元に顔を寄せ、彼の気持ちを尋ねる。 「……怖い?」 「ううん。平気」  レイはリチャードの方を向くと自分から軽くキスをする。 「……リチャード、シャワー浴びる?」 「……俺、汗臭いかな?」 「そう言う意味じゃないよ」  レイはくすり、と笑う。 「僕はシャワー浴びたい。ギャラリーの中が暑かったから、汗かいてて気持ち悪いんだ」  リチャードはレイの首筋に顔を寄せて、くん、とにおいを嗅ぐ。 「止めてよ。臭いだろ?」 「ううん、甘い香りがする。普段は香水つけないって言ってたよね?」 「今日はパーティだったから……特別だよ。この香り嫌い? リチャードには甘すぎるかな」 「いや、レイにぴったりの香りだよ。俺は好きだな」  そう言ってリチャードは首筋に唇を軽くあてる。 「これユニセックスの香水なんだ。だから少し甘めな香りだよね」 「何ていう香水?」 「La Religieuse(修道女)」  レイは流れるような口調でフランス語の香水の名前を口にした。 ――随分妖艶な修道女だな。 「僕には似合わないかな」 「まったく罪作りな修道女だよ……」  リチャードは首筋に顔を埋めたまま、両手をレイのシャツの内側に滑り込ませる。 「あ……っ」  リチャードの手がレイの素肌に触れると、彼は堪らず声を上げた。

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