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四、
鬼の居ぬ間に洗濯とは、まさにこのことだとハチヤは思う。時折、この自由への罪悪感や焦燥感のようなものが走るが、それでも父が戻ればまた、自分の思いでは生きることができない。
今日ばかりは、好きな時間に食事をとり、好きに衣を繕って、好きに体を拭いて、好きに糸車を回して、好きな時間に寝られるのだ。
ハチヤは、夕飯に食べた栗ご飯の甘味を思い出しながら、布団に包まった。狸の与えてくれた恵みが、体をぽかぽかと温めてくれるようで、その瞼はすぐに落ちていく。
ふと、不思議な夢を見た。
夢の中で、ハチヤは何者かに組み敷かれていた。父、かと思ったが、そうではない。知らない「誰か」だ。
うつつの出来事でないからか、嫌な気持ちはなかった。父に抱かれるときは辛くてたまらないが、「誰か」に触れられていると、気持ちがとろけていくようで吐息が漏れる。
やがて自分でも抑えられないような、甘い声が喉から零れだした。「ハチヤ」と、「誰か」も耳元で甘く呼ぶ。するともう、体は熱く熱く、痺れるだけだった。
「はっ……はぁっ……い、まの夢、なんで」
それを拍子に、ハチヤは跳ねるように起きた。首筋にじっとり髪が張り付く。そしてやはりというべきか、褌の奥に不快な湿りを感じた。
そもそもあの行為自体、父が勝手にするだけでハチヤは達することなどない。どれだけ突かれようとも、射精に至る快感など得られるものではないのだ。
ハチヤは右脚を動かして、恐る恐る褌を外す。やはりそこには白濁した液が垂れていた。夢のせいか、ハチヤの陽根はいまだ熱を持ち、透明に湿る。
不意に、あの「誰か」のことを思い出した。優しく柔らかく体に触れてくる、名も顔も知らぬ……いや、思い出せない夢の人。
「……ん」
思いがけず、体が熱を持ち始めた。「誰か」を受け入れた最奥が収縮するように震えている。こんなことは初めてだった。
「あ、……うそ……」
指先を二本、湿らせて後孔に差し込むと、まるで待っていたかのように沈んでいく。孔口の淵に指が擦れるだけで、期待に体が痺れた。
「んっ……うん……こんなこと、ないのに……っ」
眉間に皺を寄せるハチヤの眉は、扇情的に歪む。いつもは閉じられている唇も開かれたまま、吐息のような甘い声色が絶え間なく漏らされた。
「やっ、……だめっ」
折り曲げたその時、指の腹が快楽の回路に触れる。ハチヤの若い体は打ち上げられた魚のようにびくびくと震えた。それとほぼ同時に、抑えきれない快感の残滓が薄い敷布団の上に散る。
「あ……はぁ、はぁ……っ」
ハチヤは呆然としながら、ゆっくり目を閉じる。「誰か」が優しく頭を撫でてくれた気がした。
◆ ◆ ◆
あれからハチヤは、快楽を覚えてしまった自分に嫌気がさし、静かに父の帰りを待った。ひたすら家にこもり、糸車を回す。そうしていれば、あの浅ましく卑しい行為のことを忘れられるのだ。
どれくらい糸を紡いでいただろうか。そろそろ狸が摘んでくれた綿花も尽きそうだ。改めて獲りに行かなくては、とハチヤが我に返ると、外では雨がざあざあと合唱するように降っていた。
早いうちに洗濯物を取り込んでいたことに胸をなで下ろしながら、そういえば父はどうしているかと案じた。この雨では笠を被っていても役には立たないだろう。
薄く戸口を開けて、外の様子を見る。冷たい外気が滑り込んで、ハチヤは肩を震わせた。今夜は、もう少し囲炉裏の火を強くしておいた方がいいかもしれない。そう過ったとき、真っ直ぐに降り注ぐ雨の幕を縫うように、父が現れた。
「おっ父!」
ハチヤが呼びかけると、荷車を引く父は片手を上げて答えた。
つづく
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