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--- 「いっ。ぁ…おかえりなさいませ。お嬢様…。」 慣れない言葉の並びに頭に文を思い浮かばせても、なかなか声に出せず、戸惑い接客をする蓮。 バイトで接客経験がある為、その他のサービスはお手の物だが、さすが執事喫茶、相手が女性ばかり…。しかも、自分が執事な身分のためお嬢様扱いしないといけないプレッシャーもある。 怖い印象を持たれているだけでビジュアルが良い蓮は稀に見せない笑顔も相まってか、次々に指名が入り慌ただしく大盛況な中、休む暇なく午前中が過ぎてお昼休憩へ入った。 (あぁ、くっそ…何処だよ…。) 着替えの入った袋が見当たらない。 沢山あるクラスメイトの荷物の中に埋もれているのか、探しても探しても何処にも見つからなかった。 (時間も無いし、仕方ないな。このまま行くか…。) 手先が器用な晴は料理も得意で、体育祭やスポーツ大会等のイベントの時は蓮の分までお弁当を作ってくれて、二人で食べるのが恒例になっていた。その為、文化祭の今日も暗黙の了解で蓮の昼食は晴お手製の手作り弁当だ。 準備室へ向おうと教室を出る。緊張からか何なのか、少し胸がキュッと締め付けられる痛みを感じた。蓮の足取りは重たいが、何時も歩く廊下は装飾や生徒のボルテージが高まっている為、周辺が華やかだ。 ピタリと、足を止めた。 無いはずの壁に何がある。と横を見れば、大きくも小さくもない一つのキャンバスに絵が塗られていた。白い中には同じ大きさの四角のキューブが複数。その一つ一つは、表情が異なって、透明で透けている物、それが氷で汗のように雫が伝っている物、箱の中に水が入り光が乱反射している物、全くの真っ白な物、一見すればただの箱でもそれぞれに特徴を持つ。 (あいつらしい…。) 描いていた横顔を思い出して、すぐそこの準備室の扉を開ける。

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