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A:3-4
あれこれ考えてしまって微妙な顔をしているだろうから、見せたくなくて背を向けたままでいると後ろから抱きしめられた。セックスをしておいて何を今更って感じがするけど、何もしてない時に肌が密着するのは落ち着かない。襟足を弄ってると思ったら、弱く首筋に吸い付かれて、そのまま肩や首の後ろにまでキスマークを付けられた。散々付けたはずなのにまだ足りないらしい。
「おい。どれだけ付ければ気が済むんだよ」
「んー、付けるところがなくなったらかなぁ。……てか、声掠れてるね。水飲む?持ってくるよ」
そう言って遊佐が背中から離れていく。空気に晒された背中が寒くて――寂しくて、ベッドから下りようとしていたのを名前を読んで引き留めた。寝落ちしなかったせいで思考回路がうまく回ってないから変なことを口走りそうだ。
「ゆさ、キスして……」
「……なんでそんな泣きそうな顔してんの」
「……はやく」
いやいやと首を振って急かすと、何も言わずに慰めるようにたくさんキスをしてくれた。
本当に泣きそうになって首の後ろに腕を回してしがみつく。ただのセフレっていう自分の立場をちゃんと弁えていたはずなのに、遊佐とこうしていられるのが嬉しいとか変なことを考えてしまって複雑だった。遊佐らしくないことばっかりだったから俺も当てられたのかな……。
……声も顔も好きなタイプのやつと、こうしてセックスをして抱き合っていられるだけで奇跡なのに、それ以上の関係は求められないよなぁ……。
好みのタイプに優しくされて柄にもなく乙女思考になってしまった。自分のものになってくれないかな、なんて……。それが不可能だと理解しているから胸が苦しくなって、回した腕にぎゅーっと力をこめた。
高望みして今の関係が崩れるくらいなら、セフレでいる方がいい。元々の目的は誰が相手でも達成できるけど、知らない誰かとヤるよりは安心できるし安全だし、ある程度はこっちの要望も聞いてもらえる。
「はは、らしくないね?甘えたさんだ」
「『甘えたさん』とか気持ち悪いこと言ってんじゃねぇ……」
「口の悪さも復活したね?でもそういうところも可愛い」
遊佐はもう一度額にキスをくれると、「すぐ戻ってくるから待ってて」と言って部屋を出ていった。
取り残された部屋で一人、遊佐が出ていったドアをぼーっと見つめる。だらだら会話をしていたらだんだん頭が覚醒してきた。それと同時に自分の言動と置かれている状況が分かってきて、冷静にさっきのことを思い返して……気分は最悪。
「はあぁぁ…………」
何してんだ俺……。自分からキスを強請ってしまった。考えるだけ無駄なのに、一瞬でも「遊佐と付き合いたい」とかおかしいことを考えてしまった。普段は自分で「遊佐と付き合うのなんて絶対に無理だ」と言ってるくせに。
ああもう……ほんとクソ……。
「どうしたの」
恥ずかしいやら情けないやらで頭を抱えて唸っていると、遊佐が片手にペットボトルを持って戻ってきた。差し出されたそれを礼を言って受け取ろうとするとひょいっと引っ込められる。何のいたずらだ、と立っている遊佐を見上げるとにこにこしていて、なにやら怪しい雰囲気で。この顔は……何か悪いことを考えてるに違いない。
「……喉、乾いたんだけど」
「うん、知ってる」
それだけ言ってなぜか遊佐がペットボトルに口を付けた。俺のために持ってきてくれたんじゃないのか。持ってきたのは一本だけだし、見せつけるように目の前で飲むなんて、ほんとコイツは……。
遊佐を睨んでいるといきなり顎を掴まれ上を向かされた。
「ん!?んん~っ!」
唇を舌でこじ開けられたと思ったら、生暖かい水が流れ込んできた。驚いて頭を引こうとしたけど、遊佐の手が後頭部を押さえていたから逃げられなくて、このまま口に含んでいても溺れるだけだろうから、もう頑張って飲むしかなかった。
「……んくっ、……ぷはっ!」
「どう?美味しい?」
「美味いも不味いもあるか!いきなり何すんだよ!死ぬかと思った……」
「じゃあもう一回。今度はちゃんと味わってよね」
「ちょっ……んっ、んん!」
俺の返事なんか待たずにまた口を塞がれる。さっきよりもゆっくりと流し込まれて、ただの水のはずなのに心なしか甘い気がした。
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