32 / 95

A:2-2

遊佐の家と俺の家が割と近い距離にあるから行動範囲が被るのか、街で遊佐を見かけるなんてこともたまにあった。大抵友達と大人数でいるか女と二人きりかのどっちかだったから、お互いに気づいたとしても向こうから声をかけてくることもなければ俺から声をかけるなんてこともしなかったし、ヤる時以外で顔を合わせるのが嫌で向こうが気づかない内に避けることの方が多かった。 遊佐と彼方が一緒にいるのを見たことがなかったから双子だなんて知らなかった。もしかしたら彼方を遊佐と間違えた時もあったかもしれない。……あ、でも一度だけ一人でいるのを見たことがあった。あれはきっと彼方だったんだろうな。 以前は……具体的にいうと今年の春くらいまでは、俺は遊佐と同じ学校に通ってる生徒の一人に過ぎなかった。遊佐のことは有名だったし伊折を通して一方的に知っていたけど、あいつがクラスも所属カーストも違う俺のことを知っていたとは思えない。その他大勢の中の一人としてそのまま関わることなく日常を過ごし卒業していくはずだった。 だけど、ちょっとしたハプニングに巻き込まれる形で、俺と遊佐はお互いをしっかり認識することになった。それ以降、目をつけられたのか分からないけど、頻繁に呼び出されるようになってヤってるわけだ。夏休み初日から呼び出すなんて、あいつもよっぽど暇なんだな。 シャワーを浴びて『遊佐とヤった』という証拠をできるだけ体から消して、新しい服に着替える。もちろん下着も取り替えた。さすがにあいつとヤったままの恰好で彼方に会うなんてできない。いくらセックスをしてるのがバレてるといっても、明らかに昼間からヤってきました、なんてツラ下げて会う神経、俺は持ち合わせてない。 ……彼方は、俺が遊佐とセックスしてるって知ってるのに、気持ち悪がったりしなかったな。いや、内心はどうなのか知らないけど。 知りたいけど……答えを聞くのは怖い。友達が少ない俺にとって、仲良くなれそうな人は貴重だ。 昼飯を食べて軽く部屋を掃除した。昨日はいろんなことがあって慌ててたから来客の用意をしてなかったけど、今日はちゃんと準備しておいた。あとは彼方が来るのを待つだけだ。 彼方と家に二人きりか……、勉強会になるかな……。わざわざ来てくれるんだから、意識しすぎないように気を付けないと。どの教科をやるかは決めてない。俺の様子を見て決めるって言ってた。まるで家庭教師みたいだ。 リビングのソファーに凭れて心の準備をしていると、彼方から『もう少しで着くよ』とメッセージが来た。いざ、出迎える側になると緊張してきたかもしれない。俺の緊張が伝わったのか、ルルが膝の上に乗ってきた。 慰めてくれてんのか分からないけど、毛が纏わりついてすげえ暑いんだよなぁ……。 メッセージが来てから十分くらいして、家のインターフォンが鳴った。 出る前に一度、深呼吸をしてから玄関ドアを開けた。彼方はにっこり笑って外階段の先にある門の所で手を振っている。彼方の笑顔を見たら、ちょっとだけ緊張が解れた。 「ふふ、こんにちは」 「こ、こんにちは……」 「あはは、緊張してるの?可愛いねぇ」 「やめろ、可愛くなんかねぇ」 外階段の一段目に立つ俺の方が少しだけ高くて、見下ろした彼方の姿はなんだか新鮮だった。平均身長より少し高い俺よりもさらに十センチくらい高い。ぱっと見じゃ分からないけど、彼方の方があいつより二センチ高いらしい。 彼方が俺の隣に並ぶ。すぐにいつも通りに戻った身長差を残念に思いながら、彼方を家に招き入れた。

ともだちにシェアしよう!