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「お待たせ~、彼方特製ゴーヤチャンプルーです」
ぱぱっと一品作り上げた彼方は、料理の乗った大皿をテーブルに置いて俺の隣に座った。
これがゴーヤチャンプルー……。見た目は野菜炒めっぽい。兄貴が『ゴーヤの代表的な料理』として話していたから知ってはいるけど、食べるのは初めてだ。
「大丈夫、下処理ちゃんとしたから苦味も少なくなってるよ。夕飯にしよう」
「ああ。いただきます」
「いただきます」
さっそくゴーヤチャンプルーを箸で摘まんで一口食べてみる。少し苦かったけど普通に食べられる。というかむしろ美味い。なんで兄貴があんなに嫌ってるのか分からなくなってきた。こんなに美味しいならもっと早く料理に取り入れれば良かったな。
「……初めてのゴーヤの味はどう?」
「美味いよ。兄貴が『あれは悪魔の食べ物だ』って言ってたから、もっとヤバい食べ物かと思ってた」
「あはは、お兄さんどれだけゴーヤ嫌いなの?でも、夏希の方は食わず嫌いを克服できたみたいで良かったね」
「うん、ありがとな、彼方」
素直に礼を言うと彼方はちょっと照れ臭そうに笑っていた。
朝も夜も一緒に食事をするなんて、まるで家族みたいだ。うちは『食事はできるだけ家族みんなで』ってタイプだったけど、今は兄貴も姉貴も一人暮しをしてて家にいないから、こうして誰かと一緒だと懐かしくなる。
「お前ってほんとに料理上手なんだな。まじすげぇよ」
「夏希にそう言ってもらえるなんて嬉しいなぁ。自分で言うのも変だけど、俺、料理得意だし基本的な家事は大体できるし、いい旦那さんになると思うよ?」
「ん?ああ、そうだな?」
適当に返事をすると、彼方はがっくりと肩を落とした。ごめん彼方、お前の作ったゴーヤチャンプルーに夢中でよく聞いてなかった。ここまで美味しいと他の料理も食べてみたくなる。すっかり胃袋を掴まれてしまったらしい。
夕飯を食べ終えて、二人で並んで皿洗いをした。俺が洗った皿を彼方が拭いていく。リビングでテレビでも見てろと断ったけど、手伝うと言って聞かなかった。こいつ、意外と頑固なところあるよな……。
「今度、彼方特製ゴーヤチャンプルーの作り方教えてくんない?味付けも俺好みだったし、兄貴が帰ってきたら食べさせてやりたい」
「わぁ、ゴーヤ嫌いにゴーヤ食べさせようとするなんて夏希くんも悪い子だねぇ。まあ教えるくらいいいけど、そのかわり今日も泊まっていい?もちろんご両親が許してくれればの話だけど」
「え?全然構わないけど……そんなんでいいのか?つーか、二日連続で外泊って親が心配しねぇの?」
「うん、平気だよ、ウチ放任主義だから。あ、また一緒に寝ようね?」
泊まりたいだなんて、彼方が何を考えてるのかまったく分からない。しかも狭いベッドで一緒に寝るとか必然的に添い寝コースだ。エアコンがあるとはいえ熱帯夜確定で暑苦しいのに、なんか変なことでも考えてんのか……?
真意を探ろうと隣にいる彼方を見ると、俺の視線に気付いてへらっと笑った。
「ああ、大丈夫、何もしないよ?」
「…………」
「えっ、ほんとに何もしないからね?まあ、したとしても抱きしめるくらいだよ」
抱きしめようとしてんじゃねぇか……。
こんな男を抱枕の代わりにしてなにが面白いんだか。
昨日は家まで彼方を運んで疲れてたからすぐに眠れたけど、眠るまで俺がどれだけドキドキしたと思ってるんだ。
「二人だとベッド狭いし、俺、布団で寝るわ」
「えっ、じゃあ俺も布団で寝る」
「なんでそうなる……」
「夏希と一緒に寝たい。だめ?」
俺の顔を覗き込むように首を傾げて聞いてくる。反射的に「全然だめじゃない」と言いそうになったのをぐっと堪える。いや、待て、その聞き方はずるいだろ。あざとすぎる!
あんなにくっついてたら本当に心臓が保たないし、それに……あいつと同じ顔だから、寝ぼけて何か間違いを起こすかもしれないし……。昨日みたいに密着するくらいだったら、ベッドで寝るより広い床に布団を敷いて寝る方がいいよな?間違えないようにするためにもやっぱりそっちのがいいよな?
「はぁ……分かったよ。洗いもの終わったら、布団出すから手伝え」
「はぁい。ふふふっ、お泊まり楽しみだな~」
「呑気なやつめ……」
あいつにしろ彼方にしろ、俺は遊佐兄弟に振り回される運命なのか……。
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