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これから訪れるであろう素晴らしきセックスライフにわくわくしてると、いきなり部屋のドアが開いた。見ればエプロンを着けたカナがいる。知らないうちに帰ってきていたらしい。
「ハル、お昼できたけど食べる?てか、」
カナに聞かれて時計を見るともう十二時だった。朝ごはんを食べたのはいつもより遅かったけど、さっき激しめの運動をしたからちょうど腹が空いていた。食べると伝えると、カナは「分かった」とだけ言って出ていった。
わざわざ聞きに来るなんて、よっぽど機嫌が良いらしい。昨日の外泊が原因だろうことは、なんとなく分かった。
着替えてダイニングまで降りていくと既にカナは食べ始めていて、俺も作ってあった炒飯を皿によそってテーブルについた。食べながらお昼のバラエティ番組を観ていると、カナが思い出したように口を開いた。
「そうだ、ハル。俺、今日も夕飯作れないかも」
「は?それって、また泊まり行くってこと?」
「泊まりはしないと思う。けど、夕飯の時間には帰ってこれないかも」
「……優等生の彼方くんが、そんな時間までどこで誰と何してるわけ?」
「ご心配なく、友達の家でただの勉強会だから。やましいことは何もないよ」
せっかくの夏休みなのに友達の家で勉強会……。勉強バカのカナが機嫌良くなるのも納得だ。勉強バカもここまでくるとビョーキなんじゃないか?
「あ、今、勉強バカとか思ってたでしょ」
「べっつにー?勉強熱心なのはいいことだよね」
カナが勉強会で家を空ければ、好きなだけセフレを連れ込める。今日はもうあいつを呼び出しちゃったから、午後は別のコを誘おうかな。これでも一応、呼び出すのは一人につき一日一回って決めてる。
「……俺が家にいなくても、女を連れ込むのはやめてよね」
「…………チッ……」
「舌打ちよくないよ」
いつもこうやって窘められるけど、カナだって俺が素直に聞くと思ってないはずだ。真面目なカナにとってセフレは『面倒事』の象徴みたいなものなんだろう。現に今までも、俺のセフレがカナを俺だと勘違いして迷惑かけたことがあったし。
面倒事を家に持ち込むな、って言いたいのはよく分かる。でも俺も健全な高校生だしヤりたい盛りなんだよなぁ……。逆にカナみたいなやつの方が珍しいと思うんだけど。ああ、草食系男子ってこと?うん、カナはそれっぽい。きっと可愛い女子が目の前にいて誘ってきても、『はしたないよ』って注意するタイプだ。
「一緒に勉強会する友達って、女?」
「男だよ。昨日泊まったのもその子の家」
「女だったら俺も行こうと思ったけど、やっぱそうかー……。カナが女の家に行くなんてありえないよな。外泊なんてするから彼女でもできたのかと思った」
「俺はハルみたいにそこら中に彼女作らないよ。ふふっ、俺はこの人がいい、って人じゃなきゃ嫌だもん」
え、何、その含みのある笑い方……。まるで狙ってる相手がいるみたいな……。
つーか、俺がそこら中に彼女作ってるみたいな言い方するなよ。作ってるのは彼女じゃなくてセフレだし。
でも……カナの気になる相手ってやっぱり気になる。勉強バカのカナを落とすなんてどんな子なんだろう。きっと頭も良いんだろうな。泊まったときの話をすごく楽しそうにしてたからその人かと思ったけど、男らしいしなぁ。
俺たちって性格は真逆だけど、好きになるタイプは一緒だから大方予想はできる。だけど彼女ができてもカナは絶対教えてくれないからいつも他人から聞いて、そこで初めてカナに彼女ができたことを知る。俺に取られるとでも思ってるんだろうか。他人のもの、ましてやカナのものを取ろうだなんて、この俺が思うわけないのに。
カナの顔をじっと見つめてみたけど、何考えてるか分からない。俺の方が経験値高いはずなのに、恋愛話になると途端にカナの考えてることが分からなくなる。
……恐るべしポーカーフェイス。
「ま、ハルの下半身事情なんて、俺に迷惑かからなきゃどうでもいいんだけど。じゃあ出かけてくるね」
「お勉強、頑張ってね」
「ハルは、くれぐれもセフレを連れ込まないようにね」
先に食べ終えたカナはきっちり釘を刺してから、愛用の猫のトートバックを肩から提げて出かけていった。
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