42 / 95

C:2-1

仲良く洗い物を済ませると夏希は約束通り布団を出してくれた。部屋は狭いし持っていくのが大変だから、と布団は一階の和室に敷いていく。普段はベッドで寝ているから畳の上に敷布団ってなんだか旅館に来た気分だ。 「彼方、もっとそっち側引っ張って」 「こんな感じ?」 「よし、これでオッケーだな。あ、彼方、先に風呂入ってこいよ。着替えはあとで持ってくから」 「うん、ありがとう。夏希も一緒に――」 「入るわけねぇだろ」 真顔でばっさり切られて、一人寂しくシャワーを浴びる。さすがに出会って二日で一緒に風呂はないよな……。温泉ならまだしも家の風呂だしなぁ。 「……そうか、温泉だ……!」 今度、夏希を誘って日帰り温泉にでも行ってこよう。ここから二駅くらい離れたところに、小さい頃お祖母ちゃんによく連れていってもらった温泉があるからそこがいいな。あ、でももっと距離を縮めるなら泊まりの方がいいかな?旅館ってシチュエーション効果も期待できそうだし、小旅行ってことで夏希に聞いてみよう。 ふふ、楽しみだなぁ……。 頭の中でいろんな妄想をしながらシャワーを止めて浴室を出る。ふわふわのバスタオルで体を拭いているとガラッと脱衣所のドアが開いた。 「あっ」 「あ、夏希」 「う、わ、ご、ごごごごめんっ!まだ入ってるかと思った!き、着替えはここに置いとくから!あ、下着は新品だから!じゃあごゆっくり!!」 俺と目が合った夏希は数秒固まった後、早口で捲し立てて着替えをその場に置くとバタバタと出ていってしまった。……あんなに慌ててどうしたんだろう。裸だったけど夏希には背を向けていたし、同性の肌を見たくらいで普通あんなに動揺しないよな。 ……夏希の顔、赤くなってたなぁ。……もしかして、ちょっとは意識してくれた、ってことかな?もしそうだったらめちゃくちゃ嬉しいんだけど。でも、ハルと付き合っていて最後までヤってるみたいだから、ハルの体を見ちゃった、みたいな感じなんだろうか。それで顔を赤らめられても困るんだけどなぁ。 まあ、ハルと付き合ってようが何だろうが夏希を諦めないことに変わりはないけどね。けっこう好反応だし。ちゃんと俺にドキドキしてくれてるといいな。 服を着てタオルで髪を拭きながら和室に行くと、夏希は布団の上で三角座りをしてルルちゃんと喋っていた。いや、正確には喋っているのは夏希だけで、ルルちゃんはしっぽを揺らしてそれを聞いている。俺の方に背を向けているから夏希の表情は分からない。 ルルちゃんが俺に気づいて「にゃあん」とひと鳴きしたけど、夏希は俺が来たことに気づいてないらしく、はぁ、と深刻そうにため息をついた。 「ルル、どうしよう、まだドキドキしてる……。……かっこよかったなぁ……」 気になる言葉が聞こえて夏希の背後に忍び寄る。真後ろに立っても夏希は考え事に夢中らしく、俺の気配に気づかない。 「『かっこよかった』って、誰のこと?」 「っ……!!」 後ろから抱きしめ耳元に顔を寄せて囁くと、夏希は声にならない声を出して驚いていた。突然現れた俺の存在に脳がついていってないのか、振り返った夏希は目を丸くして見つめてくる。驚いた顔も可愛いなんて思ってしまう俺は、自分が思ってる以上に夏希のことが好きみたいだ。ぶっちゃけ今すぐ襲いたいくらいだけど、まだ落としたわけじゃないから我慢する。ヤるのは付き合ってから、が俺のモットーだ。反面教師はもちろんハル。だから襲うことはせずに、にっこりと笑顔を浮かべてさっきと同じ質問をした。 「『かっこよかった』って、誰が?」 「…………ち、ちがっ」 「違う?何が違うの?」 「なんでもない!ふ、風呂入ってくる!!俺が上がったら今日の復習するからなっ!!」 近くにあった枕を俺に投げつけてお風呂へと逃げていった。飛んできた枕を手で受け止めて布団に並べ直す。『なんでもない』ことはないよね。恥ずかしがっちゃって可愛いなぁ。 夏希もルルちゃんくらい扱いやすかったらすぐに落とせるのに。さすが、ハルが気に入っただけあるというか、何というか……。でもまあ落とすまでも楽しいし、頑張った分手に入れたときの達成感も味わえるし。何より相手が夏希なら努力を惜しまないつもりだ。 「あのハルがライバルなんだから、俺も頑張らないとねぇ。ねぇ、ルルちゃん?」 「んにゃー」 ふわふわなその体を撫でていると、ルルちゃんは俺を応援するかのように手の甲をぺろっと舐めた。

ともだちにシェアしよう!