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夏希が上がってくるのを待ちながらルルちゃんと遊んでいると、泊まることになったとハルに伝えてないことをふと思い出した。スマホは夏希の部屋だけど……勝手に入るのは憚られるし夏希がきてからでいいか。 紐の先にネズミがついたおもちゃをルルちゃん専用のおもちゃ箱へ取りに立ち上がったついでに、離れて敷かれていた布団をぴったりくっつけた。夏希がいたら『なんでくっつけるんだよ』って言うだろうから、いないうちに移動させておく。うん、これなら一緒に寝てる、って気分になるな。 布団に寝転がって、持ってきたおもちゃでひとしきりルルちゃんをじゃらしてやる。こんなに可愛いのにどうしてハルは猫が好きじゃないんだろう。猫に引っ掻かれたとか噛まれたなんて聞いたことないのに。小さい頃はハルも一緒に野良猫と遊んだような気がするけどなぁ。 そんなことを考えていると、Tシャツにハーフパンツ姿の夏希が戻ってきた。夏希のサイズに合っていないのか上下ともだぼっとしていて、たまに脇とか胸元とかが見えてしまうからとても目に毒だ。 「……何じろじろ見てんだよ」 「あ、いや、可愛いなぁと思って」 「……アイス食べよーっと。彼方も食べる?」 「ああ、うん、食べる……」 反応が薄い、というか完全にスルーされた。前は『可愛くない!』とか反論してくれたのに、もしかして『可愛い』って言われることに耐性がつき始めてる? ……いや、違うな、からかってると思われてるのか。わりと本気で言ってるんだけど。遊んでるように見られたくはないけど、距離を取られたくもないし……。ちゃんと段階を踏んでいきたいから、しばらくは思っても言うのは控えた方がいいかな。残念だけど『可愛い夏希』は心の中にそっと閉まっておこう。 夏希からいちご味のカップアイスを受け取ると、復習をするために部屋に来た。アイスをかじりながら昼間と同じようにノートとワークを広げて解き始める夏希を横目に、ハルに『今日も泊まります』とメッセージを送った。明日の朝ごはんも作れないだろうからそのこともちゃんと伝える。二日続けてお泊まりだからきっと怪しむだろうなぁ。 案の定、彼女じゃないのかと疑ってるメッセージが来た。友達と勉強会だってちゃんと言ったのに信じてないらしい。無視しても良かったんだけど、ハルは俺に対して遠慮がないから気になることがあると後で絶対にうるさい。夏希の写真を撮って送るわけにもいかないし……どうやって証明しようか。 「…………夏希、ちょっとテーブルの上の写真撮ってもいい?夏希は入らないようにするから」 「何で?」 「ハルに今日も泊まるって伝えたら、彼女かって疑われてね。勉強会だって証拠送りたいの」 「ふぅん。そんなので証拠になるんならどーぞ」 夏希から許可を得た俺は、自分のペンケースも入れて広げられたノートとワークを撮ってハルに送った。夏希の言う通り、彼女説を否定する証拠にするにはちょっと足りないかなぁ。でも勉強会をしてるって証拠にはなるだろう。 ハルから『こんな暑いのに、むさ苦しい勉強会なんてお疲れ様です』と嫌みたらしい言葉が返ってきたけど、ひとまず信じてくれたみたいだ。 むさ苦しいってハルは言うけど、俺としては好きな子と一緒にいられるんだからそんなこと全然思わない。ハルは一体どんな男を想像してるんだか。……ああ、そうか。男ばかりだとむさ苦しいってことになるのか。でもルルちゃんがいるから男ばっかりってわけでもないよね。 「夏希、ルルちゃんの写真撮っていい?ハルに送る」 「いいよ。……お前らって意外と仲良いのな」 「そんなことないよー?しょっちゅう喧嘩するよ」 大抵の原因はハルの女癖が悪いからなんだけどね、と心の中で付け足して、ちょうど俺の脚に乗っていたルルちゃんの写真を送る。 猫好きでもないハルがこの画像を見て喜ぶとは思わない。なんとなく牽制みたいな感じ。ハルは泊まったことないらしいけど、付き合ってるなら夏希が猫を飼ってるって知ってるはずだ。写ってる猫がルルちゃんだって気づけば、俺が今どこにいるのかわかるだろう。 貞操観念の緩いハルだけど、自分のものを他の誰でもない俺に取られることが一番嫌いらしい。ハルだって自分の好みのタイプなら俺も気に入るって分かってるから、俺が自分の恋人の家にいると知ったら文句のひとつくらい言ってくると思っての行動だ。夏希とのことは俺からは絶対に言わない。あのハルがどこら辺まで匂わせたら気付くか試してみたい。ちゃんと本気なのか、それとも遊びなのか。反応によってそれが分かるだろう。 そんな俺の予想に反してハルからは「猫可愛いね」と返ってきただけで、それ以外は何の反応もなかった。まあ、猫好きじゃなければ猫の顔の判別はできないか。ちょっと匂わせの難易度が高すぎたな。もう少し考えなければ……。

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