復習をキリのいいところで終えて、俺たちは再び一階に下りてきた。お風呂も入ったし歯磨きもしたしあとは寝るだけ。夏希はぴったり寄り添った布団を見て俺をジト目で睨んできたけど、微笑んで返すと呆れたようにため息をついた。 「そんなに俺と寝たいわけ？」 「うん、寝たい」 「即答かよ！ほんとに変なヤツ……」 「ふふ、なんだか修学旅行みたいだねー！あ、そうそう、今度一緒に旅行いかない？」 「は？旅行？秋に修学旅行あるだろ」 確かに夏休みがあけてすぐに修学旅行があるけど……。旅行と言っても学科が違うから回るコースも違うし、夜にホテルで少し会うくらいならできるかもしれないけど、班別行動だからあまり会えないだろう。俺は夏希と二人で旅行したいんだよなぁ。 「もー、そうじゃなくて！夏希と二人で、ってこと！今すぐが難しいなら、例えば進路が落ち着いたらとか卒業してからでもいい。とにかく俺は夏希と二人で行きたいの」 「…………考えとく」 熱弁する俺の気持ちが伝わったのか、夏希はふっと笑ってそう言ってくれた。思い付いたときは近いうちに行って距離を縮めるという目的だったけど、今は夏希と二人で行けるならいつでもいい。その頃には距離を縮めるというよりも仲を深める旅行になっていればいいな、なんて思っていると夏希は俺を置いてさっさと布団に入ってしまった。 電気を消して俺も布団に入る。布団をくっつけているから思っていたより距離が近かった。夏希は寝返りをうってこっちを向くと、俺の顔をじーっと見てきた。 「……彼方、その服きつくないか？兄貴のなんだけど」 「うん、ちょうどい……あっ、やっぱりちょっときついかも。俺的には昨日のジャージの方がいいかな」 「……嘘つけ、お前それただ単にジャージ着たいだけだろ。もう絶対着せないからな……」 昨日借りたのは新品の下着以外、夏希のジャージだった。成長を見越して作られたらしいそれは、袖や裾が余ることもなく俺にはちょうど良かったけど、逆にそれが夏希にはちょっとショックだったみたいだ。 「あはは、バレちゃった。でも勝手に着ちゃってお兄さんに怒られたりしないかな？」 「着ないやつ置いていったみたいだから大丈夫だろ。着れそうなやつがあってよかった」 そっか、夏希のお兄さんって家を出てるんだっけ。初日にいたお姉さんも今は一人暮らししてるらしいし……。 そういえば、ここ二日間泊まってるけど夏希の両親に会ったことがない。俺の親みたいにあまり家に帰って来られない仕事なのか、それとも夏希を一人置いて旅行にでも行ってるのか。 「ねぇ、ちょっと聞いてもいい？」 「なに？」 「夏希の、ご両親って……」 「………………」 障子を開けてあるから窓からは月の光が差し込んでくる。そのおかげで室内は辺りが見えないほど暗くない。だから夏希がどんな表情をしているのかも全部分かってしまう。 目を伏せて困惑と悲しみが混ざったような複雑な表情で、何と返したらいいのか考えてるみたいだった。このことは触れてはいけない話題だと瞬時に察した。 お兄さんやお姉さんの話は聞くのに親の話は夏希の口から一度も出てない、なんて少し考えれば思い付くだろ。やってしまった……。 「あ、いや、話したくなかったら全然言わなくていいから。ごめん、無神経だった……」 「……ううん、大丈夫。……せっかくだし聞いてくれるか？」 夏希は心の準備をするように一度深呼吸してから、ぽつりぽつりと話し始めた。