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「…………親は二人とも、俺が中一の時に事故で死んだよ」 「……っ」 夏希の口から語られた出来事に胸が締め付けられる。 放置されたプランターや花壇と、きれいに整頓されたキッチンやリビングがあまりにも対照的で、放任主義とか自立させるためとかそんな言葉じゃ片付けられないような感じはしていた。 つらいことを夏希の口から言わせてしまうなんて……もっと察するべきだった。 言葉を紡げないでいると、夏希の手が伸びてきて俺の頬をむにっと摘まんだ。 「はは、なんで彼方がそんな悲しそうな顔すんの。過ぎたことだし、そんな重い話みたいにしないでよ」 「……でも、つらいこと思い出させちゃった。ごめんね……」 「謝ることじゃないって。さすがに死んですぐの頃はつらかったけどさ、兄貴たちがいてくれたし……もう大丈夫だよ」 大丈夫だ、と言ってるものの、そう言った夏希の笑顔は痛々しかった。本人はあくまで過ぎたことだからと軽い感じで話してくれたけど、親の死をそう簡単に乗り越えられるほど俺たちはまだ大人じゃないと思う。夏希が親を亡くした年齢を考えれば、余計に。 「夏希は偉いね。家のことも一人でできるし、ちゃんと前を見てる」 「偉くなんかないよ。兄貴たちがいないから……自分でやらなくちゃいけないから、やってるだけ。じゃないと生きていけないし」 「でも自分の力でやろうとしてるでしょ?それって、やっぱりすごいと思う」 「ははっ、褒めてもなんも出ないからなー?」 素直に褒められたのがむず痒かったのか、夏希は照れたように笑った。よかった、ちょっと笑ってくれた。 俺も手を伸ばしてそっと夏希の頬に触れる。夏希の傷ついてる顔は見たくない。夏希にはずっと笑顔でいてほしい。欲を言うなら、夏希が悲しそうな表情をしてるときは俺が笑顔にしてあげたい。 出会ってまだ間もないけど、そう思ってしまうくらい夏希のことが好きなんだと自覚する。 「ハグもだめ?」 「だめです。つーか、何で俺が褒めてくれたお礼する感じになってんだよ」 「じゃあ、俺がしてあげる。夏希が頑張ってるからご褒美のハグ」 「は?意味わかんな……ちょ、暑いから!くっつくなって!」 夏希の頬にあった手を背中に回して抱き寄せる。俺の上に夏希を乗せるような体勢になると、予想通り文句を言いながら、でも楽しそうに笑いながら俺の胸を押して引き剥がそうとしてきた。 「夏希」 「あ?なんだよ……、……っ!」 睨むように見上げてきた夏希の前髪を退かしておでこにキスをする。これはつらいことを話してくれたお礼。 こう思ってしまうのって不謹慎かもしれないけど、お互いのこともまだまだ知らないことだらけなのにそういう話をしてくれたことが、俺を心の内側に入れてくれたみたいですごく嬉しかった。誰だって身内が亡くなった話なんてしたくないだろう。今回は俺の方から聞いたから話してくれたけど、あのまま流すことだってできたはずだ。 「夏希はほんとに可愛いねぇ」 「ひぁっ!?そ、そんなとこ嗅ぐなって……!」 夏希の焦った声を聞きながら逃げないようにぎゅーっと抱きしめて、夏希の首筋に鼻を寄せるといい匂いがした。 ああ、ついさっき『可愛い』は心の中に仕舞っておこうって決めたのに。夏希のことを知るたびにどんどん好きになっていく。こんなにいい子、ハルにはもったいない。いつかハルと夏希の取り合いになるんだろうなぁ。 俺の髪の毛が当たってくすぐったいと身を捩った夏希の首筋には、昨日見つけたキスマークがあった。たぶんハルと学校でヤってたときに付けられたやつ。ハルのくせに珍しくマーキングするなんて。夏希に対しての独占欲がバレバレだ。 ……しかもどういうわけか、一日経って薄くなっているどころか、昨日より明らかに数が増えていた。

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