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C:2-5
Tシャツの首元を少し引っ張って確認してみると、キスマークは首筋だけじゃなくて背中にまで広がってるみたいだった。
またハルに付けられた?
でも、いつ?
昨日夏希は学校帰りに俺と会って看病をしてくれて、そのまま泊まったからずっと一緒だった。今日は俺が帰ってから二時までフリーだったから、付けられるとしたらその間だろうか。……そういえば図書館からの帰り道に夏希と会ったけど、あの時確か俺の家がある方から来たよな。もしかして、あれって……。
「ねえ夏希、今朝俺が帰った後って何してたの?」
「えっ?」
「そういえば昼間ばったり会ったよね。あれって何の用事だったの?」
「か、彼方?」
抱きしめたまま尋ねると夏希は戸惑ったように俺の名前を呼んだ。何もやましいことがないのなら話せるだろうし、もしハルと会ってたならそう言えばいい。
この話を終わらせる気はない、と体を離して夏希の目を見据えると、夏希は観念したようにため息をついた。
「……あれはちょっと呼び出されて……」
「ハルに?」
「へ?」
「今日、夏希を呼び出したのって、遥果なの?」
問い詰めると夏希は俺から目を逸らしてこくりと頷いた。やっぱりそうだったのか。まあでも、ハルとは付き合ってるらしいし会うくらい別に普通だろう。昼間からヤるなんてハルらしいとは思うけど。むしろハルと付き合ってるのに、こうやって俺と一緒に寝てることの方がやましいんじゃないか?人のものに手を出してるのは完全に俺の方だし。
でも、あいにく俺は夏希を諦める気なんてさらさらない。他の人だったら遊佐遥果の恋人って時点で敵わないと諦めるんだろうけど、俺からしたらハルのことを近くで見てきた分、ヤることしか頭にないようなおサルさんより俺の方が何倍も良いだろって思う。ハルよりも大事にできる自信がある。
ハルの恋人だから奪いたいんじゃなくて、ハルの恋人だったとしても夏希を手に入れたいんだ。そのためにはまず、敵の手の内を知って、分析して、対策を立てないと。そういうのは俺の得意分野だし、なにしろ恋敵はハルだ。あのハルがどんな風に夏希を想ってるのか知って、ハル以上の愛を夏希に伝え続けて絶対に攻略してやる。俺は難しい恋ほど燃えるタイプなんだ。
これでもけっこうアピールしてるつもりなんだけどな。伝わってるけどスルーされてるのか、それとも気づかずにただからかわれてると思われてるのか。ハルは良くて俺がダメっていうのがなぁ……、それなりに……いや、普通に妬く。
「人が図書館で誰かさんのために解説作ってるときに、その誰かさんはハルとセックスしてたんだ?」
「なっ……その顔でセックスとか言うな!」
「でもセックスしてたの本当でしょ?こんなにキスマークつけられちゃってさぁ」
「キスマーク?そんなの知らねぇよ!」
俺の言葉を否定し睨んできた夏希の頬は赤い。ほら、やっぱりヤってたんじゃん。しかもキスマークを付けられたことに気づかないほど夢中になってたのかな。
やったのはハルで――俺の双子の片割れで、俺の知らない他の誰かが相手だって聞かされるよりは冷静に考えられるけど、それでもやっぱりあんな女誑しと付き合ってるなんていい気持ちはしない。こんなに可愛い恋人がいるのにセフレをたくさん作るなんて、端から見たら全然大事にされてないように見える。ハルの性格的にセフレと同じような扱い方をしてそうだ。
好きな人が自分の片割れと最後までヤってますって証拠を、まざまざと見せつけられて大人しく見てるほど俺は人間ができてない。ちょっとは意地悪もしたくなる。
「ハルとのセックスってそんなにイイわけ?ハルじゃなくても良くない?」
「まあ、あいつじゃなくてもいいかもしれないけど……呼び出されるし……」
「毎晩セフレと遊び歩いてるような、あんな貞操観念のないやつのどこがいいの?」
「……はぁ?どこがいいとかは別に……」
「夏希は、そんなにハルのことが好きなの?」
「……ちょ、ちょっと待て!俺があいつを好き!?なんでそんなことになってんの?」
投げやりな気持ちで質問を続けると夏希の表情が険しくなっていって、ついに慌てたように起き上がった。
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