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起き上がった夏希は布団に手を付いて、寝そべっている俺を見下ろしてくる。別の状況だったらこのシチュエーションも楽しめただろうけど、なんだか話が食い違ってるような気がして俺も起き上がった。もし俺の勘違いならちゃんと夏希の話を聞かないと。 「えっ、ヤることヤってるし付き合ってるんじゃないの?俺てっきり、夏希はハルのことが好きなんだと……」 「確かに俺はあいつと……や、ヤってるけど!でも、付き合ってはいねぇよ!……顔とかは好きだけど……あいつと付き合うなんてそんな怖いこと自分からしない」 「…………はぁぁ……なんだ、そうだったの?それならそうと早く言ってよ……」 「まさかお前がそんな勘違いしてるなんて思わねぇよ……びっくりした」 よかった、付き合ってなかったんだ……。ハルと付き合ってないならだいぶ有利になったかもしれない。ハル以外に別の好きな人がいるとしても、例えそれがイケメンでも美少女でもハルを相手にするよりは断然楽だろう。 夏希の方がハルと付き合おうとは思ってないのも幸いだった。もしハルのことが好きだったら振り向かせるのがちょっと難しくなってたけど、そうじゃないなら俺を好きになってもらえばいいだけの話。好きなのは顔って言ってたし、だったら俺でもいいだろう。第一段階はクリアと言っても過言じゃない。 それに、少なくとも俺からのハグやキスを何だかんだ受け入れてくれてるみたいだし、実際にハルとヤってるから男もイケるはずだ。男同士でそういうことをするのに嫌悪感を抱いていないなら勝機はある。 安堵していると夏希が肩に寄りかかってきて俺の顔を覗き込んできた。 不意にこういうことをしてくるから、もしかして俺に好意があるのかなって勘違いしたくなる。でも、これ以上勘違いして突っ走って相手に逃げられるような馬鹿にはなりたくないから、慎重に、確実に仲を深めていきたい。 「彼方って本当におかしなやつだよなぁ。あいつと同じ顔してんのに中身は全然違う。あいつはあんな感じなのに、彼方はすげぇ良いやつだ」 「俺にとってハルは反面教師だからねぇ。俺はハルみたく気に入ったからって、すぐに手を出したりはしないよ」 「ふぅん……」 「まぁ、したとしてもせいぜいハグとかキスくらいかな」 「それって手ぇ出してんじゃねぇか……」 「ふふ、こんなの挨拶とかコミュニケーションの内のひとつだよ。外国の人もやるでしょ?」 夏希の腰を引き寄せて顎をくいっと持ち上げる。びくりと体を跳ねさせた夏希は訝しがるような目で俺を見つめてくる。 ハルよりも俺が、この宝石みたいに綺麗な子を大事にして、そして幸せにしてあげたい。ハルには絶対に渡したくない。 「夏希、確認なんだけど、本当にハルと付き合ってないんだよね?」 「付き合ってねぇよ。あんなやつ、付き合おうとも思わない」 再確認してそうと決まれば、あとは遠慮せずにいくだけだ。まあ、今まで遠慮したことなんてなかったけど。 「じゃあ、俺にもつけさせてよ」 「『じゃあ』ってなんだよ。……一応聞くけど、何を」 「キスマークに決まってるでしょ。ハルは良くて俺はダメって、なんか許せないんだよね」 「いや、知らねぇよそんなこと。そもそもあいつにだって許した覚えなんてな、い……おい、やめ、んっ……」 押しに弱い夏希は口では抵抗するものの、されるがままだ。サイズの大きいシャツから出ていた鎖骨あたりに強く吸い付いて痕をつけた。一つくらい増えたって誰も気づきやしないだろう。 赤く色づいた肌を確認するように舐めてから顔を離すと、夏希は眉を下げ目を瞑り、口元を手で覆っていた。ハルが夏希に入れ込む気持ちがわかるわ……。そういう表情をされると襲いたくなる。 「……付けやがったな」 「ふふ、付けちゃった」 「ほんっとにお前、変なやつ!」 「これもコミュニケーションのひとつだよー」 あんまり構うと嫌われちゃうかなと思いつつ、好きな子を構うのを止められない。『コミュニケーション』でもほどほどにしておかないと。 俺から視線を逸らした夏希は首を押さえて、「こんなコミュニケーション、あってたまるかよ……」と呟いていた。

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