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せっかくあいつとの時間を楽しんでたのに、カナに邪魔された挙げ句、家の前まで連れて来られた。このまま帰ったら絶対に夜中まで解放されない気しかしなくて、荒業を使ってカナから逃げ出す。もともとの運動神経も俺の方がいいし、体調の悪いカナを撒くのは簡単だった。
カナには悪いけど、今日もあの女の生け贄になってもらおう。
学校近くの自然公園を抜けて校門をくぐる。途中でクラスの女子に捕まりそうになったけど上手く躱して校内に入って準備室を目指す。
置き去りにされたあいつがもう帰っている可能性もあるけど、もしかしたらまだ残ってるかもしれない。
そう期待して準備室の奥、あいつがさっきまでいたはずのところを覗いてみたけど……。残念ながらいなかった。それなら教室は、と思って向かってみたけど誰もいなかった。
「くそ……やっぱ帰ったのか……」
準備室にも教室にもいなかった。他に行きそうなところなんて分からない。不幸にも、スマホは充電が切れてしまったから連絡することもできない。
今日は帰すつもりなんて無かったのに。家とか場所を移して続きをする予定だったのに。あんなに色気駄々漏れのまま外をうろつかれても困る。どれもこれも全部カナのせいだ。……俺に蹴られたカナはもう帰ったんだろうか。
帰る気になんて全くならなくて校内をぶらつく。部活がある生徒以外はみんなもう帰ったらしい。しんとした廊下を進んでいくと、ちょうど通りかかった職員室から伊折が出てきた。
「あれ、遥果?帰ったんじゃなかったのか?」
「ちょっと用事があってね。それより、夏希見なかった?」
「なつき?」
「二組の八重夏希くん」
フルネームを聞くと伊折は「ああ、彼ね」と頷いた。何か良い情報がもらえるかも、と期待して続きを待つ。
「夏希くんならもう帰ったよ。遥果たちが帰って三十分くらい経ってから下駄箱のとこで見た」
「そっか……。ねぇ、スマホ貸してくんない?」
「はぁ、なんでまた?」
「電話したいの。俺のやつ充電切れちゃってさー。伊折さま、お願い!」
両手を合わせて頼み込むと、ちゃんと充電しとけよ、とぶつぶつ文句を言いながらも貸してくれた。
やっぱりもう帰ってたのか。あれだけ探させといて学校にいないとか。帰るなら帰るってメッセージの一つくらい入れてくれればいいのに……って結局見れないから意味ないか。
そんなことを思いながらダイヤルをタップしていく。夏希の電話番号は最後の四桁が誕生日だから覚えやすい。本人は『夏休み中だからなかなか友達に祝ってもらえない』って笑ってたけど。
いつもなら夜中でもすぐ出るのにどんどんコール数が増えていき、ついに留守番に切り換わった。アナウンスが聞こえたところで通話を切る。
「……出ないんだけど」
「俺に言われてもねぇ。てか番号覚えてるんだ……俺のスマホに連絡先入ってたのに」
「出なかったのなんて初めて……夏希のくせになんで出ないわけ?いったいどこで何してるの?」
「え、それマジで言ってんの?」
それにマジだよ、と答えてスマホを返す。スマホを受け取って大きなため息をついた伊折を見れば、呆れたような顔をしていた。あ、これお説教始まっちゃう感じ?次に出てくる言葉はきっと『あのな、遥果』じゃない?
「あのな、遥果。夏希くんだって――」
伊折くんは俺がワガママを言うと『そんな我が儘を言うんじゃありません』ってありがたーいお説教をしてくれる。今回はたぶん『夏希のくせに』って言ったのがアウト。お説教自体は十分もかからないけどその内容がけっこうクる。思い出すだけでもいろいろ萎えるわ……。
「俺、用事済んだからもう帰るね!ありがと伊折!」
「あっ!おい、遥果!最後まで聞けよ!」
伊折が後ろでまた大きなため息をついた。今日はひとまず見逃してくれるみたいだ。俺は早く夏希を探さないと。
謎の使命感に駆られて再び学校を出た。
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