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首元以外にも服の裾を捲って腰の辺りを見せてもらった。少し露出した範囲だけでも埋め尽くすようにキスマークと噛み痕があって言葉を失う。上も下もこんなに付けられてるんだから、背中全体はすごいことになっているんだろうな……。
見るだけでこんな複雑な気持ちになるんだ。もし行為中の音を聞いていたらと思うと、家の防音がばっちりだったことに感謝するしかない。
自分のモノだと見せつけるようにびっしりと付けられたそれらに触れる。噛み痕は消えかけてるものからくっきり残ってるものまであった。ハルのやつ、どれだけ強い力で噛んだんだ……。
「っあ、痛てっ。そんなに触んなって。ひりひりする」
「あ、ごめん、痛いよね……。こんなにハルの独占欲が強いなんて思ってなかった」
「……痕なんか付けてきてさあ、何でかあいつ、俺なんかに執着してるみたいなんだけど」
夏希は怠そうに溜め息を付いた。全く心当たりがないって感じだ。頻繁に呼び出されていても、自分がハルのお気に入りだとは思っていないんだろう。
夏希がハルの好きなタイプであることは間違いない。そうじゃなかったらお気に入りなんかにならないし、こんなに執着心を見せることもない。でもその『好き』はまだ恋愛的な意味じゃなくて漠然とした『好み』の範疇を出ていないはず。
これは俺の持論だけど、『好き』は『好み』の延長線にあってより限定的で発展したものだ。ハルが夏希を恋愛対象として見ているのならさっさとセフレなんか止めてとっくに付き合っているだろうし、ハルと付き合ってるのなら夏希は俺と勉強会なんかしないだろう。まだセフレの中のお気に入り枠から出てないってことは、ハルが夏希のことを恋愛として好きになってないってことだ。というか、今までセフレから彼女になった事例を知らない。夏希に対する例外は、ハルの中でどこまで適用されるんだろうか。
「俺が付けたキスマーク、どうしてハルにバレたの?」
「さあ?俺は何も言ってないから、自分で見て気づいたっぽいけどな。それこそ会って五分くらいで」
「そんなに早く……」
上手く紛れ込ませたつもりだったんだけどな。付けた場所も場所だからやっぱり気づくものなんだろうか。他人に興味無さそうに見えて、ハルは結構目敏いから……。すぐに自分が付けた痕じゃないと気づいたのはそういう方面での経験が豊富だからかもしれない。
俺が変に対抗心を燃やしてキスマークを付けたりしなければ夏希が痛い思いをしなくて済んだ。それに、ハルは俺が付けたキスマークを見て夏希に自分以外のセフレがいるんじゃないかと疑ったに違いない。裏にいる誰かの気配を感じてもなお関係を切らないということは、いよいよ手放す気がないんだろうな。
俺のせいで夏希が大変な目にあったと知って落ち込んでいると、振り返った夏希にぺちっと両手で頬を挟まれた。そのまま頬を摘ままれむにむにと弄られる。
「本当にごめんね……。俺がキスマークつけなければこんな……」
「別に怒ってないから。……けど責任取って、どうやったら隠せるか一緒に考えろよな」
「っ、もちろん!何時間いや、何日でも考えるよ」
「それもう夏期講習始まってるから。とにかく、首元と鎖骨のやつだけでもどうにかならねぇ?彼方センセ?」
キスマークや歯形のついた肌を見るだけでも刺激的なのに、首筋をさらけ出した状態で伏し目がちに名前を呼ばれるとグラッときてしまう。……危ない危ない、俺までハルと同じになるところだった。
こんなところで手を出すわけにはいかない。死んでも我慢しないと。夏希の言う『彼方先生』の破壊力がとんでもなく強いことがよく分かったから、安易に呼ばせないようにしなくては。
これ以上見ていて何かやらかしそうな気分になってくると大変だから、夏希の肌から視線を逸らして考えるふりをする。
まだちょっと冷静になりきれてないけど。夏希の肌よりも今は隠すための方法を考えるのが優先だ。
そう自分に言い聞かせていざ夏希に向き直ると、何やら不敵な笑みを浮かべていた。かと思えばこてんと俺に凭れかかってきて、不満そうに唇を尖らせて案を急かしてくる。
「なぁ、彼方センセー?何かいい方法ないの?」
「……あの、夏希、『先生』って言うの、ちょっとやめていただけたら……」
「えー何で?嬉しくなかった?」
「いや、嬉しいんだけど、破壊力がすごいと言うか……。ってか、俺が恥ずかしがるの分かって言ってるでしょ!だから駄目」
「いったぁー……彼方先生のせいでめちゃくちゃ首とか背中が痛いなぁ……」
「……夏希、さっき怒ってないって言ってたけど、実は結構怒ってるでしょ……」
仕返しと言わんばかりに俺をいじってくる。夏希って意外とドS……っていやいやいや、何を考えているんだ。ちょっと危ない扉を開けそうになってしまった。
とりあえず自分で考えても気が散っていい案が出てきそうになかったから、ここはひとつネットの力に頼ることにした。
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