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『……ねえ、今どこいんの?一人?』 「普通に家だけど一人ではない。つーかお前、本当にどうしたんだ?」 『そんなの俺が一番知りたいよ。誰かさんのせいで頭ん中ぐちゃぐちゃなんだもん』 誰かさんのせいで、って……。 やけに含みを持たせた言い方をされて考える。 ……まさか俺……? 夏休みに入ってから会うたびに遊佐らしくない言動が増えたと思ってたけど、もしかして気づかないうちに遊佐に何かいけないことでもしてしまったんじゃないか? 遊佐らしくなくなってしまう原因になりそうな過去の自分の言動を振り返る。 ……駄目だ、全然分かんねぇ。 遊佐の呼び出しにはちゃんと応じていたし、浅すぎず深入りしすぎず適度な距離は守っていた。特に思い当たるようなことはない。 変わったことと言えば彼方と知り合ったことくらいだ。それもここ数日間のことで遊佐には言ってないから俺たちのことは知らないはず。変に勘が鋭い遊佐でもさすがに気づかないだろう。 ……仮に本当に俺が原因だったとして、何をすれば遊佐は元通りになるんだろうか。 『で、なんで来られないの?』 「……急用ができて」 『……今日が無理なら、じゃあ明日は?』 「明日も無理だな」 遊佐は俺に兄貴がいることを知らない。セックス以外の俺のことなんて興味ないだろうし、言ったところで何かあるわけじゃないから今まで言ってない。姉貴のことは偶々言う機会ができたから言っただけで、遊佐といるときに電話がかかってこなかったらずっと言わないままでいただろう。 兄貴が帰ってくるから行けないと言ったら大人しく引いてくれるのか。理由を曖昧にしていたら電話口で盛大なため息をつかれた。かなりご機嫌斜めらしい。 遊佐のことだからいつもだったら『機嫌悪いフリ』だと思うけど、様子がおかしいせいもあって今のは素の感情なのかと疑ってしまう。俺からしたら遊佐は、相手を釣るために気まぐれや思わせ振りな態度を出すことはあっても本当の感情はいつも隠しているように見える。だからどこか掴みどころのないやつだと思ってたわけで……。 早く通常運転に戻ってもらわないと本当に困るんだけどな。 『夏休み全部俺にくれるって言ったのに?』 「言ったけどさぁ……、退っ引きならな、ひぃっ!?」 『なに、どうしたの』 「あ、や、なんでもない!」 体勢を変えようとしたら肩が何かにぶつかった。不思議に思って振り返ると、いつの間に起きてきたのか彼方が隣に座っていて、おかげで変な声が出た。し、心臓止まるかと思った……。 あまりにも気配がなさすぎて来たことに気がつかなかった。念のため和室から少し離れたところで電話してたけどうるさかったか。 「……ハルから?」 声を抑えて聞かれた問いに頷くとあくびをして肩に凭れてきた。まだ眠いなら布団に戻ればいいのに、どうやらこのまま一緒にいるつもりらしい。 電話の向こうには遊佐、隣には彼方がいるこの状況、めちゃくちゃ心臓に悪いぞ……。ボロを出しかねないから早く電話を終わらせよう。 「とりあえず、何がなんでも行けないから。じゃあな」 『はあ!?ちょっと――』 まだ何か言いたそうだったけど気にせず切る。すぐにかけ直してきたから拒否アイコンをタップして、続けざまに送られてきたメッセージも無視した。 行けないものは行けないんだから我慢してもらうしかない。まあ俺がダメなら別の人に声かけるんだろうなと思ったら少し複雑な気持ちになったけど、さすがに兄貴より遊佐を優先する義理はなかった。 「ん、あれ……切っちゃったの?」 「ああ、うん」 「ハル、機嫌わるかったね。あした荒れるだろうなぁ……」 「そんなの知らね」 彼方が聞いてもそうなら、どうやら本当にご機嫌斜めだったみたいだ。 「荒れてるハル、めんどくさいんだよ……」なんて呟いて俺の腕に自分の腕を絡めてきた。繋がれた手を引いて和室に戻る。 うとうとしている彼方を布団に寝かせて、俺も自分の布団に入った。 「ハルにはお兄さんのこと言ってないの?」 「遊佐には関係ないし。言う必要性がないよな」 「そっかぁ」 なんでちょっと嬉しそうなんだか。 せっかく綺麗にタオルケットをかけてやったのにわざわざこっちの布団に来て抱きついてきた。俺のうなじにすり寄ってきて腹を撫でてくる。まさか、またこの体勢で寝るんじゃないだろうな。 「夏希、いい匂いがする……」 「お前なあ、くっつかれると暑いんだって。ちゃんと自分の布団で寝ろよ」 「うんうん、また今度ね……」 「今度っていつだよ……」 返事の代わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。暑苦しいのによく平気だ。彼方の指で遊んでみても反応がなくてつまらなくなったから、俺も諦めて目を閉じた。

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