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A:4-2
俺に新しい友人ができたと知ると、兄貴は決まってその人の印象を聞いてくる。気になれば会いたいと言い続け、観念して会わせようものならその友達はなぜか俺と距離を置くようになる。ほとんどの人がそうだった。
そもそも友達が少ないから話題に上がることも少ないけど……、友達と呼べる友達がほとんどいないのって絶対兄貴のせいなんだよなぁ。
他にも原因はあるかもしれないけど、俺の知らないところで兄貴の厳しい審査が行われふるいに掛けられているのだろう。過程は何であれ結果はいつも同じで俺のところには誰も残らない。兄貴に友達の話をした時点で負のルートへまっしぐらだ。
高校に入ってその法則に気づいてからはなるべく友達の話をしないようにしていたんだけど、どういうわけか交友関係をはじめとした学校での些細な情報が兄貴に筒抜けで、兄貴の審査から逃れられた友達はいなかった。そして今までにその厳しい審査をクリアした誰もいなかった。
……いや、一人だけいたな。
そういえば伊折は中学生の時にクリア済みだ。どこを気に入られたのか分からないけど、なぜか伊折は大丈夫だった。どんなルートで俺の高校生活の情報を仕入れてるんだ、って思ってたけど、まさか伊折が犯人か……。
あり得なくないっていうか、兄貴と繋がってるのはあいつしかいない。今度会ったら文句のひとつでも言ってやろう。
「俺の学校生活のこと兄貴に教えてるのって伊折だろ」
「ん~?なんの話?……でも伊折くんはいい子だよね」
その答えは俺の疑問を肯定してるも同然で、黒い笑みを浮かべる兄貴にこれ以上突っ込んではいけないと察した。兄貴に知られたくないことは伊折にも知られないようにしなければいけないな。……特に遊佐との事とか。
「でもまあ、伊折くん以外にも家に上げるほど仲の良い友達ができたんだな。兄ちゃん安心したよ」
「友達、っつーか……」
俺と彼方って、なんだろう。勉強会がなければわざわざ会う関係でもない気がするし……でも遊びに行く約束はしてるから一応『友達』になるのかな。唯一中学から仲が良かった伊折とは高校に入ってから交流が減ってしまったし、今のクラスメイトとは喋るけどどこかへ一緒に遊び行ったりはしない。友達らしい友達がいないからよく分からないな。
途中から考え込んで言い淀むと、突然隣からダンッと大きな音がして真っ二つになった大根がまな板の上に倒れた。驚いて兄貴を見ると何やら不穏なオーラを纏っていた。包丁、まな板に刺さってないよな?大丈夫だよな?
「…………、え、なに。……まさか、付き合ってんの?」
「はあ!?違っ、友達だから!」
表情を消し去った兄貴にじっと見つめられて、慌てて否定すると「だよね、よかった~」とすぐに笑顔に戻って大根を切り始めた。
働きすぎて情緒が不安定になってるのかなと思ったけど昔からこんな感じだから通常運転の範囲か。うっかり地雷を踏んでしまったばかりにまじで殺されるかと思った……。
「彼方くんって、俺よりスペック高い?」
何でもないように聞いてくるけど、よく考えたらこの質問できる人間ってなかなかいないよな……。
普通の人が口に出したら引いてしまいそうな疑問でも兄貴が言うと妙に納得してしまう。
唯一の欠点(にしてわりと致命傷)がブラコンだということしか思いつかないくらい、兄貴は自他共に認めるハイスペック男だ。身内の贔屓目を抜いて見ても昔から何をやらせても完璧にこなすし(ブラコンなことを除けば)人間もできてるし、本人もそれを自覚して上手く使いこなしているから当然のように周りからの評価は人の何倍も良かった。
伊折に理想が高いと言われたことがあるけど、この兄貴をすぐ近くで見てたら誰だって嫌でも高くなる。
いつもならすぐに「兄貴よりハイスペックなやつなんていない」と答えるけど、そういえば彼方はどうだろうとつい考えてしまって、無いはずの間に気づいた兄貴が心底驚いたような声を上げた。
「えっ、彼方くんそんなにすごいの?」
「うん、まあ……高校生にしてはいい線いってるかなぁ」
兄貴をずっと見てきた俺からしても彼方は充分ハイスペックな部類に入るだろう。年齢や人生経験を抜いて見れば兄貴と同じくらいか、もしかしたら兄貴より高いんじゃないか……なんて、俺はどこから目線で言ってんだ。
……でも、兄貴とどことなく似ているというか……できる人間特有の匂いというか、そんなようなものがある。いや兄貴と同じとか彼方に失礼だな。後で謝っておこう。
「えええ……まじかぁ。ついに候補現れちゃった……」
「候補?なんの?」
「夏希の彼氏候補だよ!」
どうしてそれだけで彼方が彼氏候補になるのか。確かに顔も声も俺の好みのタイプだし、彼方みたいな人と付き合えたらいいだろうけど……。兄貴の考えることはいつも意味が分からない。
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