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「……ごめん、どこかで会ったことある?同じ高校?」 「はい。委員会くらいでしか接点はないですけど……」 戻ってきた彼にそう言われてまじまじと顔を見てみると、たしかに春頃にあった学科長会議の顔合わせにいたような気がする。会議では顧問から一年の学科長たちの紹介があって、二、三年生も自己紹介をして……と記憶を辿ってようやくそこでしっかり思い出した。一年生の普通科副学科長の子だ。軽い挨拶しかしてなかったけど俺が同じ学科の先輩だからか、さすがに覚えてくれていたらしい。 「よく遥果の方だって分かったね?」 会議に参加してたなら俺とカナが双子だってことも知っているだろう。二人揃って学科長をやってるから話題性があるらしく、どちらか片方しか見たことがなくても俺たちが双子だっていうのを知ってる人は多い。というかみんな知っていると思ってた。夏希みたいに俺とカナが双子だってことを知らないのはなかなかレアケースで、逆にどうして知らなかったのか不思議なくらいだ。 双子だと知ってるからといって、みんな俺たちを見分けられるかと言えば全然そんなことはない。付き合いの長い友達でさえ間違えるのにほぼ初対面でよく見分けられたよなぁ、と普通に感心していると、彼は少し恥ずかしそうに目を伏せた。 あ、今の表情、少し夏希に似てるかも……って何考えてんだ、俺……。 「彼方先輩には委員会以来お会いしてないので、正直まったく自信はなかったんですけどね。雰囲気がなんとなく遥果先輩かなって。合っていたみたいで良かったです」 「ああ、なるほどね。えっと……名前教えてもらってもいいかな?」 「あっ、ボク、『ナツキ』っていいます」 「え?夏希?」 「夏の木に結ぶ星と書いて『夏木結星』です。どうかしました?」 夏希のことを考えたくなくて逃げてきた先で、まさか『ナツキ』に出会うとは。何気ないことでもそれをきっかけに思い出してしまうのに、名前が同じとか……こんなの、夏希のことを考えずにいられるわけがないだろう。 どうしても夏希に繋げてしまうのは、ずっと胸に居座っているこのモヤモヤの原因が夏希だからなのか。それとも……。 考えないようにすればするほど考えてしまうという悪循環に陥ってしまっている。日に日に夏希のことを考えている時間が多くなってるような気がして何だか怖くなった。 不思議そうな眼差しで見てくる彼に気まずくなって、放置してしまっていたアイスティーに口をつけた。 「いや……、『夏木結星』くんね。ごめんね、人の顔と名前覚えるの苦手なんだ」 「いえいえ、全然大丈夫ですよ!ボクも苦手なんで。一度会ったくらいじゃなかなか覚えられませんよね~」 困ったように笑いながら胸の前で両手を振る。後輩フィルターもあってか何の下心もなく単純に可愛い、というか『ああ、いい子なんだな』と思ってしまった。例えるならそうだな……子犬みたいな感じだ。夏希が気まぐれな猫だったら彼はピュアな子犬。俺の周りにはあまりいないタイプだ。 「先輩もこういう所に来るんですね。なんかちょっと意外です」 「そう?初めて来たけど、ここの雰囲気けっこう好きだよ」 「ふふ、ありがとうございます。校内で見かける時はいつもお洒落な人たちといるから、こういう古びた所より、駅前の新しいお店みたいな方が好きなんだとばかり思ってました」 「まあ、派手なのは否定できないけどね。でもああいう騒がしい場所より、こういう落ち着いた所の方が好きだよ」 いわゆるカーストの上位にいるような派手な子が集まってくるのは、単にこの顔が目当てなだけだろう。姦しいのは好きじゃないけど、可愛い女子に囲まれて悪い気はしないからそのまま拒否することもなく放っておいてるだけだ。かといって塩対応すぎるとそれはそれで面倒なことになるし、程よい対応を心がけていたら余計に印象が良くなってしまって持て囃されている。 男子とも女子とも適度な距離を保って、親しい友人が数人くらいいればそれでいいのに。広く浅く、たまに深く。それが交友関係における俺の決め事だ。……稀に例外もいるけど。 「そういえば普段周りにいるような子たちと学校外で遊ぶことってあんまりないな。ずっとうるさい所にいたら疲れるしね」 「ふふ、なんか……ギャップがすごいです。今度校内で先輩を見かけたら、疲れてないかなーって思っちゃいそうです」 「そしたら『せんぱーい』って呼んで助けてよ」 西洋の血が入ってるのか色素が薄くて日本人離れした顔をしている彼を、イケメン好きな女子なら放っとくはずがないし弟系やワンコ系が好きな女子から圧倒的な支持を得そうだ。 わりと本気でお願いしたいくらいだ。

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