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少しは取り巻いてる人を持っていってくれるんじゃないか、なんて考えていたら苦虫を噛みつぶしたような顔をされた。 「いやいや、無理ですよ!怖すぎますって……」 「えー、怖いの?どうして?」 「『二年生に超イケメンがいる』って、一年生の間でも遊佐先輩のことは話題になってるんですよ。それで、前に先輩が学科長だって話が出た時にみんなからすごい質問攻めにあって。それはもう、本当にすごくて……あんな風になるのはもう二度とイヤです」 どうやら思わぬところで彼に被害を及ぼしていたらしい。俺も女子から質問攻めという名の尋問に何度もあったことがあるけど、女子一人でも圧が強すぎるのにそれが何人もってなると本当に辟易する。あれは何度されても慣れることはないだろうな。 「でも本当に気にせず声かけてくれていいのに。夏木君なら大歓迎だよ?」 「まあ、先輩が一人の時だったら行けるかもしれないですけどね。そんなことってほとんどないでしょうし、後々のことを考えるとやっぱり怖いので遠慮しておきます」 「じゃあ俺から話しかけに行こうかなぁ」 「人がたくさんいる所ではやめてくださいよ?そんなことされたら死んじゃいますから。ボク目立つの好きじゃないんです」 大勢の視線が自分に向けられるのを想像したのか思いっきり顔を顰めていた。 そんなに目立ちたくないのなら、どうして副学科長なんか引き受けたんだろう。たしか一年生の学科長は入学試験時の成績上位者から選ばれるはずだったけど、半ば強制的とはいえ本人の同意は取らなければならないしちゃんとした理由があれば辞退できるのに。まあ、目立つのが苦手だからって理由で辞退できるのかは知らないけど。 「目立つの得意じゃないのに副学科長やるなんて偉いなぁ。辞退もできたのに頑張るねぇ」 「え、あれって辞退できるんですか!?」 「知らなかったの?先生から聞かなかった?」 「全然聞いてないですよ。うわぁまじか。……今からやめるっていうのは……さすがに無理ですよね……?」 「うん、無理だね」 きっぱり即答すると彼は長いため息をついて天を仰いだ。見た目と中身のギャップがなかなか面白い子だ。しかも見た目は全然似ていないのに、ちょっとした表情や仕草にどこか夏希っぽさを感じてしまう。 ……ただ単に夏希のことを考えすぎてそう見えるだけだったりして。夏希の代わりになってくれたらいいのにな、なんて一瞬思ってしまった。さすがに彼に失礼すぎる。 「とにかく……ただでさえ見た目のせいで注目を集めるのに、これ以上目立つようなことになったら耐えられませんよ。……逆にお聞きしますけど、先輩は目立つの好きなんですか?」 「うーん、俺は好きでも嫌いでもないかなぁ。俺の場合、悪目立ちって意味も含まれてるし」 「……それならどうして、学科長やってるんですか?」 「はは、それは内緒」 生徒の模範にならないといけないから大それたことはできないし成績も常に一定以上修めないといけない。正直なところ、面倒くさいことの方が多いから学科長をやるメリットなんてすぐには何も思い浮かばない。例えば、女子に関係を迫られた時に断ったとしても『まあ学科長だから仕方ない』みたいな雰囲気で切り抜けられるとか、その程度のことが何個かあるくらいだ。 こんな俺でさえ顔面目的で他人が寄ってくるんだから彼も俺と同じような状態になっていそうだと、冗談交じりに伝えると目を丸くしていた。 「えっ……先輩に言われても素直に喜んでいいのかちょっと複雑ですよ!」 むっと眉を寄せて怒った表情をしたけどすぐにへらっと笑う。大人しそうな子だと思ったけど冗談も通じるからかなり話しやすいし、ころころ表情が変わるから見ていて楽しい。……これも夏希と一緒だ。夏希と一緒にいる時の感覚に近くて安心する。 ……安心すると思ってしまうくらいには、俺の中で夏希がかなり重要な位置にいるのかと考えてしまって頭を抱えたくなった。次から次へと問題が出てきてどうすればいいのか分からなくなる。 「……でも、先輩みたいに周りに人が集まってくるっていうのは全然ないです。それこそ先輩の話が出たときとか何かあったとき以外は普通の距離で普通の会話しかしないですよ」 普通の距離がどういうものなのかとっくに忘れてしまったけど、彼の言う通りなのだとしたら『頑張ってお近づきになりたい』というよりは『遠くから眺めて愛でていたい』対象なのだろうか。いわゆる『高嶺の花』状態。女子にはよくあるみたいだけど、男子でそういう扱いを受けているのはなかなか珍しいんじゃないか。

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