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A:2-9
久しぶりに初恋について思い出したからか、珍しく夢にその相手が出てきた。
俺が初めて好きになった人は、兄貴の後輩だった。その男は兄貴と親しかったからよく家に遊びに来ていて、面倒見がよくて勉強を教えてくれたり遊びに連れて行ってくれたりした。親を亡くしたばかりで寂しい思いをしていた俺は、もう一人兄貴ができたみたいですごく嬉しかった。
初めの頃は普通に兄のように慕っていたけど、いつの間にか相手のことが恋愛的な意味で好きになっていて、それと同時に自分のことを好きになってほしいと思うようになった。先輩の弟として扱われるのではなく、一人の人間として見てほしかった。
それまで女子を好きにならなかった……いや、好きになれなかった自分が、その男を恋愛対象として好きなのだと認識して受け入れるまでに、そう時間はかからなかった。憧れを恋愛と履き違えてるのかもと悩んだこともあったけど、でも相手に触れたかったし触れられたいとも思っていたから、確実にそういう意味で好きだった。
その時はまだ、その相手のことが好きなのであって自分がゲイだとは思ってなかったけど。
男同士なんて、って思ったし相手に想いを伝えたら嫌われるんじゃないかとも考えた。未成年で、しかも同性を相手にそんなの無謀な話だって今なら潔く諦めることもできただろうけど、当時の俺は『いつか想いが届く日がくるんじゃないか』なんて馬鹿げた夢を見て、『それまでは迷惑をかけないようにしよう』と相手といるときは常に気を張って、絶対に自分の気持ちを表には出さないようにしていた。
自分では上手く恋心を隠していたつもりだったけど、なぜか相手には気づかれていたみたいで、ある夏の日、突然キスをされた。どうしてそんなことをしてきたのか相手の意図が全然読めなくてパニックになりながらも、嬉しさの方が勝っていた俺は後先のことなんか考えずに勢いのまま告白した。
相手が俺の好意をはねつけることはなかった。ただ微笑んで『ありがとう』と言っただけだった。
そこでこれ以上発展することはないんだと察して相手を諦められたらよかったのに、その時の俺は世間知らずのバカだったから、意地になって会うたびに何度も告白をした。相手に対して自分が先輩の弟という立場を利用していることも、成人済みの相手が中学生の俺に手を出せないことも分かりながら、そっちからキスまでしてきたくせに、と俺から迫るようなこともした。俺が想いを伝えるたびに相手を困らせているというのも分かっていた。
恋心を拗らせてはいても腐らせなかったのは、俺が何回告白しようとも、その男がちゃんと受け止めた上でしっかり断ってくれていたからで、その恋自体が嫌な思い出として残ることはなかった。
そしてずっと抱えていた初恋が終わったのは一年後の、中三の夏。相手とその友達数人と一緒にキャンプに行った日だった。
今度大学の友達とキャンプをするから一緒に行かないか、と相手に誘われて、俺の知らない人ばかりだったけど、相手からの誘いに二つ返事で着いて行った。確か兄貴も行くはずだったんだけど、急な仕事が入って行けなかった気がする。
キャンプ場では男女混合のグループでわいわいはしゃぎながらバーベキューや花火をした。日常を忘れられてすごく楽しかった。
日が沈む頃には、幹事役である相手以外の大人はみんなハメを外して酒を飲みまくってかなり酔っていた。そしてその日初めて会ったやつに酔った勢いでセクハラをされ、そいつを含めた数人が泊まっている部屋に連れ込まれた。
今思えば、ほんのいたずら程度のときにちゃんと抵抗しておけば良かったんだ。
夢だと理解して夢を見るなんておかしな話だけど、今の俺はあの時の光景を鮮明に、傍観者として眺めていた。
ベッドに寝ている俺に馬乗りになる女と俺の体に舌を這わす女、それを囲むように男が三人。ゲームをしていたはずだったのにいつの間にかそうなっていて、俺は何が起こっているのか理解できなくて、されるがままだった。
簡単に言えば、そいつらにマワされた。
女たちには跨がられ腰を振られたと思ったら、男たちからは後ろを突かれて身体を弄ばれ、何がどうなっているのかわけが分からなかった。
何度も助けを求めようとしたけど襲われている恐怖で声がでなかったし、初めて経験する場違いな感覚でそれどころじゃなかった。
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