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行きと同じ様にバスに揺られ家に帰ると玄関にハルの靴がなかった。連絡はなかったけどどうやら出かけたらしい。掃除を手伝わせようと思ってたから明るいうちに帰ってくるといいんだけど……。途中でスーパーに寄り道して買ってきた食材を冷蔵庫に仕舞いながら、ハルに昼ご飯を食べるかどうかの確認メッセージを送る。すぐに『食べる』と返ってきたから二人分の昼食を用意して、ついでに夕飯の仕込みも終わらせておいた。 しばらくしてハルが帰ってきたから二人でダイニングテーブルについた。出かけてた数時間のうちに何かあったのか、今朝に顔を合わせたときよりも機嫌が良さそうだった。どうせ別の子にでも会ってきたのだろう。 「ハル、午後は何か予定ある?ないなら家の掃除手伝ってよ」 「えー、……別にいいけど」 あまり乗り気じゃないみたいだけど手伝ってくれるらしい。日頃から恩を売っておくとこういう時に使えるから便利だ。 昼ご飯を食べ終えるとすぐに作業に取りかかった。作業量的にも一番時間がかかるであろう書斎を真っ先に二人で片付けることにして、物置から掃除道具一式を持って行く。乱雑に積み上げられた本の山を見てハルはため息をついていた。 「これ、今日中に終わるのかな……」 「頑張ればいけるでしょ。まずは本と書類から集めよう。ハルはそっち側よろしく」 「めんどくさ……」 文句を言いながらも割り当てられた所を片付け始めたハルを見届けて、俺も反対側にできた山に取りかかった。 日が傾き始めた頃、やっと本の片付けと書類の整理を終わらせることができた。見違えるほど綺麗になったけど、まだまだやるべき作業はたくさんある。届いた時の状態で放置されていた荷物も父さんと母さんのどっち宛なのか仕分けしなくてはいけないし、お祖父ちゃんからの荷物も探して片付けなくてはいけない。 「お祖父ちゃんからの荷物があるらしいんだけど見た?」 「どっちのお祖父さん?」 「宮瀬のお祖父ちゃん」 「ああ、それならこっちにあったかもしれない」 『宮瀬』は母さんの旧姓で、ここから数時間離れた片田舎で夫婦で写真館を営んでいる。小さい頃はよく遊びに行ったり長期休暇には泊まりに行ったりしていたけど、中学に上がってからは月に一回ほどに減り、高校生になった今では年に一度、正月に顔を見せに行くくらいになってしまった。 二人とも元気にしてるかなぁ。今度久しぶりに会いに行ってみようかな。 夏休みの小さな目標を立てているとハルがダンボールを持ってきた。ちょうど抱えられるくらいの大きさだ。送り主が宮瀬のお祖父ちゃんであることを確認してガムテープを剥がして開けると、中には梱包されたフォトフレームがいくつか入っていた。 「すごい丁寧に包んでくれてるけど……写真かな?」 「だろうね。なんでまたこんなものを寄越してきたんだか」 一番大きいものをダンボールから取り出して中身を確認してみる。ハルも横から覗き込んできてフレームに入っている写真を確認すると納得がいったようだった。 「なんだ、父さんと母さんか。相変わらずだなぁ」 「結婚記念日に撮ったやつみたいだね。寝室に置いといてあげよう」 今年の結婚記念日も二人でデートに行っていたからその時に撮ってもらったのだろう。梱包材に包み直して後で持っていくことにした。 「……これ、どっちだ?俺?カナ?」 「ハルじゃない?あれ、でもどっちだろ……」 「自分たちでも一瞬分からないもんなぁ。今度、伊折にクイズでも出してみようかな」 「はは、今ならまだしも当時の写真とか絶対分かんないって」 ダンボールに一緒に入れられていた他のフレームには俺たちが小学生の頃に写真館のスタジオで撮ってもらった写真が入っていた。お揃いの服を着てお揃いの髪型で同じような表情をして二人で写ってる写真ばかりで、自分で言うのもおかしいけどこうして客観的に見ると何だか不思議だった。 「なんか……ここまで揃ってると気持ち悪いな」 「うわひどい言い様。……けど作品としては綺麗じゃない?シンメトリーかっこいいじゃん」 「カナっていつも難しいこと言うよな」 写真を見て思い出したけど昔は二人で一人みたいな感覚だった。子どもの頃は離れてる時の方が珍しいくらい一緒にいたのに、いつからお互いがいなくても大丈夫になったんだろう。 酷い喧嘩をしたわけでもないし思い当たるような特にこれといったきっかけはない。気づいたらこうなっていた。中学に上がって部活が始まったりハルが遊び歩くようになったり、そういう小さい積み重ねがあってだんだんお互いから自立していったんだろうか。少し寂しくもあるけど、きっとこれが当たり前で自然なことなんだろう。

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