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ハルとこの写真はあの時のやつだとか、いろいろ思い出を話しながら一つずつフレームを見ていくと間に封筒が挟まっていた。中にはお祖父ちゃんたちからの手紙と写真の束が入っていて、こっちの写真は日常的な光景を切り取ったものだった。 ほとんどが俺とハルの二人で写ってるものや家族写真だったけど、一枚だけ女の子を写したものが出てきた。すっかり忘れていたけど、そういえばお祖父ちゃんが使い捨てカメラをくれたから撮ったんだっけ。まさかこうしてちゃんと残っているなんて。 「この子誰?」 「なっちゃんだよ。小三の夏休み、宮瀬のお祖父ちゃんのとこに泊まり行ったときに、俺がよく遊んでた子」 「あー、カナがよく話してたからそういう子がいるってことは知ってたけど。この子がそうなんだ。…………ねえ、カナ。この子のこと好きだったでしょ?」 「えっ……俺、ハルに言ったっけ?」 「いや、言ってない。けど帰ってくるたびに話してたから、なっちゃんって子のことが好きなんだろうなーって勝手に思ってただけ」 まあ、当時の俺たちは純粋に仲が良かったからなっちゃんのこともたくさん話してただろうし、ハルがその事に気づいていても何らおかしくはないか。今だったら手を出されたくないから絶対に隠すけど。 「あの夏休みはたぶん、ハルよりもなっちゃんと一緒に居たような気がする」 「間違いないね。カナが外に遊び行っちゃったからいつも一人でいたなぁ」 あの頃の俺たちは日常生活ではずっと一緒にいることが多かったけど、夏休みに宮瀬の家へ泊まりに行った時だけは別々に遊ぶことが多かった。ハルは単純に山や小川に興味がなかったみたいだけど、俺にはそういう普段あまり触れない自然というものがキラキラして見えて、冒険心と好奇心をくすぐられて一人でいろんな所へ行った。 近所にある公園でなっちゃんと出会って遊ぶようになってからは、それこそ一日中遊びに出ていたような気がする。 「写真だから見た目しか分からないけど、いかにもカナが好きになりそうな感じの子だよねぇ」 「そんなに分かりやすいかな?まあ実際に好きだったしね。せめて下の名前だけでも覚えてたらなぁ……」 「え、なに、名前覚えてないの?」 「覚えてないっていうか、本名教えてもらってなかったんだよね。ずっと『なっちゃん』って呼んでたから困らなかったし……」 誰かがそう呼んでいたからなのか、それともなっちゃんが自分自身でそう言ったからなのか。何がきっかけでそう呼び始めたのかも覚えていない。会った時からずっとなっちゃんは『なっちゃん』だった。 あんなに楽しかったはずの思い出もいつの間にか別の記憶に上書きされてしまったのか、好きだったことや秘密の場所で告白したこと、そういう印象的だった出来事しか思い出せない。 「どっかで見たことある気がするんだよなぁ……」 「ハルも会ったことあるんじゃない?」 「んー、そうだっけ?覚えてないけど……」 ハルは微かな記憶を辿っているのか眉間に皺を寄せて、写真の中のなっちゃんをじーっと見ながら「三人で遊んだことなんてあったかな」と呟いていた。何かの時に二人を会わせたことがあったと思うんだけど何だったかな……。 「引っ越すって知っていたらちゃんとお別れの挨拶したのになぁ」 「案外同じ学校にいたりしてね」 「そんなことがあったらすごいけど……お互いに成長してるからたぶん気づかないよ」 ハルに言われてうちの学校は生徒数が多いからもしかしたらって一瞬思ってしまったけど、今どこに住んでるのかも分からないんだ。そもそも日本にいないかもしれない。 幼い頃のいい思い出とはいえ、やっぱり初恋の話をするのは気恥ずかしい。それもハルとするとなれば尚更だ。こういう話はあまりしないし、二人の好きなタイプが被ってるからというのもある。きっとあの時ハルもいたら、なっちゃんの取り合いになってただろうな。 「もう、なっちゃんの話はいいから片付け終わらせちゃおうよ」 「でもめちゃくちゃロマンチックじゃない?何万分の一、いや何億分の一の確率で再会できたらもはや運命だよ」 「再会できたら、ね」 もしどこかで会うことがあったとしても、今は他に好きな人がいるからどうすることもないだろう。俺には別の『なっちゃん』がいるんだから。

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