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なんとなく物足りなさを感じる体を理性で抑えて学校を出た。午前放課に加え予定外の時間が出来てしまったから、有り余った時間をどこで潰そうか考える。そして駅前に新しい本屋ができたことを思い出して、せっかくだし行くことにした。 公園を突っ切って行った方が早いと判断して、緑が眩しい自然公園を歩く。四季折々の植物があるこの公園はここら辺ではけっこう有名なデートスポットで、俺も元カノと前に何度か来たことがある。成り行きで女子とも付き合ってみたこともあったけど、結局どれも上手くいかなかった。 少し苦い思い出を振り返りつつ出口を目指す。平日の昼間だというのに、いたるところにあるベンチはカップルで埋まっていた。 「あ?」 出口に一番近いベンチの前を通りすぎようとして、そこに座ってる男を二度見した。さっき俺を置き去りにしやがったあいつだ。なぜかぐったりと項垂れている。 周囲を見渡しても知り合いのような人はいなくて、改めて本人なのかを確認して近づくと、人の気配を感じたそいつは顔を上げた。近寄ってきたのが俺だと認識すると、切れ長の目が見開かれた。 「お前、こんなとこで何してんの?」 「……!……別に」 「連れていかれたんじゃなかった?」 「…………逃げてきた」 言葉を選んでいるのか少しの間があった。いつもは物事をスパッと言ってくるから珍しい。普段と様子が違うのは明らかで、何かあったのかと思ってまじまじと顔を見る。 「もしかして、体調悪い?大丈夫か?」 心なしか顔が赤い気がして尋ねると、明らかに大丈夫そうではないか細い声で「大丈夫……」と返ってきた。 潤んだ瞳に、赤い頬。何となく鼻声な気もするし、時々小さな咳もしてる。バカな俺でもすぐに分かった。たぶんこれは風邪だ。そういえば弟が風邪引いたって言ってたし、それが移ったのかも。 「いやいや、大丈夫じゃないだろ。早く帰って休んだ方が良いって。歩ける?肩かそうか?」 「……歩ける、けど…………家には、帰りたくない」 「ああ、嫌いなカテキョーが来るんだっけ?」 さっき準備室で聞こえたことを言うと、気まずそうに目線を逸らして小さく頷いた。いくら普段は雑に扱ってくる相手だからといって、辛そうにしている病人を見捨てるほど俺はやさぐれてない。 「……なら、俺ん家来る?その人が帰るまで休んでればいい」 「……あー……うん、ありがとう」 礼を言って立ち上がった奴の体は大きく傾いた。礼を言われたことに驚きつつも反射的に奴を受け止める。触れたワイシャツを通して伝わってきた体温はびっくりするほど熱かった。 けっこう熱出てるっぽいし……。まともに立てないほど体調が悪かったのかよ。こんなんでよく俺にあんなことが、と思わないでもないけど、とりあえず今はこいつを連れて帰るのが先だな。 家の救急箱の中身を思い出しながら、脇に腕を通して、ぐったりと凭れかかってきた奴を支えるために力を込めた。

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