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どうにかこうにかして奴を家に連れて帰る頃には、俺もすっかりへとへとになっていた。
はじめは支えられながらもちゃんと自分の足で歩いていたけど、途中で気力と体力が尽きたらしく、俺は脱力したこいつを半ば引きずるようにして帰宅した。いつもなら二十分くらいしかかからない距離も、自分と同じくらいか少しでかい男を支えながらだと倍近くかかった。
つーか、動けなくなるとか……。どんだけ無理してたわけ?
全身で支えながら、どうにか玄関の鍵を開けて家の中に入る。靴を脱がせるために一旦下ろすと、リビングのドアが開いた。
「っ!」
「おかえりー……ってあんた、また何か拾ってきたの!?」
当たり前のように誰もいないと思ってたから、開いたドアに「まさか空巣!?」と身構えたら、普通に姉貴だった。今ごろ都会の大学で華の女子大生を満喫しているはずなのにどうして帰ってきてるんだか。
出迎えてくれたのはありがたいけど、大きな荷物を抱えている今は正直ちょっと不都合だ。
「あー、えっと……ただいま。姉貴、なんでいんの?」
「荷物取りに来ただけだから、すぐ帰るよ。……で、あんたこそ、そのでかいのどうしたの?猫には見えないけど」
「……同級生、が体調悪いみたいで……」
クラス違うからクラスメイトではないし、友達もなんか違う気がして無難な同級生を選んだ。うん、間違ってない。
ぐったりとしているこいつの顔を覗き込んで、「なかなかのイケメン」とか呟く姉貴の足下でルルが鳴いた。見慣れない人間の匂いを恐る恐る嗅いでまた一鳴きする。
俺たちの会話がうるさかったのかぐったりしていた奴がんん……、と呻いた。そうだ、姉貴よりこっちが優先だった。
話はあとで、と一言断ってからまた奴を背負い、脚に絡み付いてくるルルを踏まないように注意して、二階にある俺の部屋に連れて行く。
ベッドに寝かせてから、また一階に行って冷却シートやタオルなどを持って部屋に戻る。
慌ただしく動く俺を見かねた姉貴が手伝ってくれて、空が赤くなる頃には奴もだいぶ落ち着いたみたいだった。
寝ているそいつを起こさないように、リビングまで下りてきて一息つく。取りに来たという荷物は水着やら浮き輪やらで、聞けば今度の休みに友達と海に行くらしい。海は幼い頃に一度だけ行ったことがあるけど、そこで溺れそうになったのが軽くトラウマになってそれ以来行ってない。
「あんた今日、終業式だったんでしょ?夏休みの予定は?」
「予定?全部埋まってる」
「あんたに限ってそんなことないでしょ~?恋人がいるわけでもないし」
姉貴の言葉に鼻で笑う以外何も返さないでいると、恋人ができたと勘違いした姉貴が騒ぎ出した。弟の俺がゲイであることを知ってる姉貴は、幸か不幸か腐った趣味を持ってる。腐モードに入った姉貴はほんとクソだからなるべく関わらないようにして、膝に乗ってきたルルの頭を撫でる。
予定が全部埋まってるというのはある意味、事実だ。
あいつに『夏休みは空けといてね』って言われたから。『全部?』って聞いた俺に、笑顔で『全部』ってあいつが言ったから。それを真に受けちゃった俺は、姉貴みたいに友だちと海に行ったり、泊まりがけで遊びに行ったりしないし、いつ呼び出されてもいいように予定は入れない。友だちと遊ぶ計画より、あるかも分からないあいつとの時間で夏休みのスケジュールを全部埋めた。
俺がこんなことしたって、あいつはきっとは女の子と遊ぶ合間に俺に構うくらいだ。そんな少しの時間のために、学生の醍醐味ともいえる夏休みを丸ごと捧げるなんて、俺ってほんと頭おかしい。でも、気まぐれなあいつが誘ってくれた時に他の予定が入ってて応えられない、ってなった時の方が嫌だった。
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