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お祖母ちゃんの家から少し離れた所にある二人だけの秘密の丘で、いつものように遊んでいた時のことだった。 芝生の上に広げたダンボールに二人とも寝転んで、空を眺めながら最近流行っているアニメや学校の話をしたり、将来の夢について盛り上がったりしたような気がする。 『かなくんは、きっと将来いいだんなさんになるね。お嫁さんになる人がうらやましいなぁ』 突然そう言われて驚いて隣を見たら、夕陽に照らされた横顔がすごく綺麗でいつもよりドキドキしたのを覚えている。 『それなら、なっちゃんがお嫁さんになればいいじゃん』 『あはは……それはちょっと、無理かなぁ』 どうしてそう思うのか聞こうとして、でも答えを聞くのが怖くて、結局口から出たのは別の言葉だった。 『俺なら、だれよりもなっちゃんを幸せにするよ。だから……、だから大人になったらけっこんしよう』 今度はなっちゃんが驚いて、こっちを見てきた。俺の言葉がすぐに理解できなかったのか、大きな目をさらに丸くしてポカーンとしていた。そんなに難しいこと言ってないはずだけど……、と思いつつ可愛い顔に見惚れていたら、なっちゃんはくすくす笑いだした。馬鹿にしているとかじゃなくて、照れ隠しみたいな感じだった。 『けっこんって……本気?』 『本気だけど……』 『ふふ、そっか。ありがとう』 そう言って笑ってくれたのがすごく嬉しかった。 人生初のプロポーズだった。当時の俺は、結婚すれば好きな子とずっといられるんだと信じて疑わなかった。俺が真剣に言ってる一方で、なっちゃんはあまり本気にしてなかったみたいだけど。 なっちゃんと別れて家に帰ってからもずっとドキドキが残っていて、その日の夜はなかなか寝付けなかった。明日会ったらちゃんと好きだって言おう、と心に決めたのに。 その日を境に、なっちゃんに会うことはなかった。 「っ、ゃ、やめて……や、ぁ…………っはぁ……」 隣から小さく魘される声がすると思ったら、苦しそうなため息が聞こえてきて完全に意識が浮上した。瞼を閉じたまま、もぞもぞ動いている気配を感じ取る。夏希を抱きしめて眠りについたはずだけど今はもう腕の中にはいなかった。 少しして微かに「かなた……」と呼ばれた気がして目を開ける。無意識に俺の名前を呼んでいたらしく、まさか起きるとは思ってなかったのか俺をじっと見つめる夏希の瞳が動揺していた。 どうしたのかと聞けば何でもないと困った顔で返してくる。あんなに魘されていて、何もなかったわけがない。エアコンが効いているはずなのに額に汗が滲んでいるのは、夢見が悪かったからだろうか。強ばった体を抱き寄せると子猫のように胸に頭を擦り付けてきた。 「悪い夢でも見た?」 「……まあ、そんなところ。でも大丈夫だから」 落ち着いたら眠くなってきたのか目がとろんとしている。その顔が可愛くて思わず頬が緩んでいたら軽く睨まれた。邪なことを考えていたのがバレたらしい。 「おやすみ」 「……うん、おやすみ」 抱きしめたまま夏希の頭を撫でているとそのうち規則正しい寝息が聞こえてきた。俺の着ているシャツをきゅっと握りしめていて本当に可愛い。 夏希の髪にキスを落として俺ももう一度眠りにつこうと目を閉じると、さっきの夏希の表情を思い出した。そういえば、俺の初恋の話を聞いているときの夏希はなんだか悲しそうな顔をしていたような……。過去に恋愛絡みで悲しいことでもあったのだろうか。俺の話を聞いたせいでそれを思い出させてしまったなら申し訳ないな……。 ……今度はいい夢が見られますように。 そう願って優しく夏希を抱きしめた。

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