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その日のうちに夏希から返信が来ることはなかった。昼間だけじゃなくて深夜や明け方にメッセージを送っても大抵すぐに返信がくるのに。
夏休みだから忙しいのかと考えもしたけど、俺に夏休みを全部くれるらしいから連絡を返せないほど忙しいってことはないだろう。いつ俺に呼び出されてもいいようにしておく、って言ってた。
貴重な長期休暇を犠牲にしてまで俺を優先しようとするんだから、相当俺のことが……いや、俺の顔が、好きなんだろう。そう考えると若干虚しい気がしなくもない。
既読だけつけて一体何をしているのか気になってしまって、そんな自分にイライラする。彼女がいた時でも、こんな風に相手の事が気になることなんてなかった。そもそもあまり相手に興味がなかったから。
どうして夏希が相手だとこうも感情が乱されるのか。たかがセフレに振り回されてるみたいで俺らしくない。
もう一度メッセージを送ろうとして、これじゃあ夏希からの返事を催促しているみたいだと思い直して手を止める。テキストボックスに打ち込んだ文章を消していると、他人に振り回されてる自分がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。
一応メッセージは読んでいるはずだからきっと待ち合わせには来てくれるだろう。返信に悩むような内容でもないし、だとしたら単に返信し忘れただけかもしれない。夏希にしては珍しいことに変わりはないけど。
「読んだならスタンプのひとつでも押せよ……」
そう呟いてスマホをヘッドボードに置く。明日は午前中に夏希を呼び出して、午後は例の家庭教師の授業が入ってる。最高に憂鬱だ。
夏希を呼び出したとしてもヤるわけじゃないからさらに憂鬱。あの細い腰を鷲掴んで思い切り中にぶち込んでやりたい……なんて、そんなことを考えていたら下が緩く反応してきてしまった。
自分で抜くくらいならどっかそこら辺でひっかけた女とヤるのが当たり前だった俺が、なんでこんなことしてるんだろう。
ゆっくりと下着の中に手を突っ込んで半勃ちのソレをそっと握った。
「っ……は……」
目を閉じると脳裏に浮かぶのは女の柔らかい身体でも大きな胸でもなく、夏希のこと。頭の中で今まで見てきたあいつの乱れた姿が再生される。弓形に反った身体に指を滑らせれば掠れた声で啼いて、後ろの蕾を解せば溶けた視線を俺に向けてくる。完全に固くなった自分のモノをあいつのナカに沈めて突いてやると、身を捩って快感に溺れていく。
声で、視線で、身体で、その全部で俺を誘惑してくるあいつに理性が勝ったことなんて一度もなかった。それはあいつがこの場にいてもいなくても同じで――。
「っく……ぁ……」
やばい、と思って急いでティッシュペーパーを取って自身にあてがう。いつもと違ってゴムの中に出されることのなかったソレは、受け止めたティッシュとともにゴミ箱へと消えた。
「……うわ、なにやってんだ俺……」
よりによって夏希のことを考えながら一人でするなんて……。
自己嫌悪に陥っているとスマホの通知音が鳴った。タイミングの悪さにドキリとして、でも夏希かと思って急いでアプリを開く。
『今日、これから会えない?』
「…………はぁ……」
夏希じゃなくてセフレの女からだった。全然そんな気分じゃないから「ごめん、会えない」と断ると、ウサギがしゅんとしているスタンプが送られてきた。普段の俺ならもっと丁寧な断り方をするけど、今はフォローの会話を続ける気も起きなくてそのままスマホを閉じた。セフレの女が一人や二人いなくなったって何とも思わない。思わないのに。
「あいつだけは、誰にも……」
そう思っている自分がいることに心底驚いていた。
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