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今、俺のことを独占欲が強いって言った? いやいや、そんなことないだろ。 ……なんて、それに関してはまさにここ最近ずっと悩んでいたことで。 カナにまで言われてしまうなんて、まさか本当に俺って独占欲が強いのか……。夏希に出会うまで一度も誰かに対して向けたことがなかった気持ちだから、どうすればいいのか分からず持て余している感情だ。 不安になってカナを凝視していたら、「なんでそんなに驚いてるの?」と不思議そうな顔をされた。 少しの間そうしていて、先に耐えられなくなったのは俺の方だった。気まずくなって目を逸らすと鼻で笑われた気がした。……いや、きっと気のせいじゃない。 「……俺って独占欲強いのかな?」 「強いから拗らせてるんでしょ。自分以外との共有がダメ、他人の手垢がついたら飽きたと言って手放す、自分のものにならなければ初めから諦める。こういうこだわりって全部、独占欲が強いからじゃない?」 カナは確認するように、指を折り曲げてひとつずつ挙げていく。 「待ってよ。最初のは分かるけど、独占欲が強かったら手放さないし諦めないもんじゃないの?」 「そこは難しいところだよね。独占欲が強いからこだわりも強くなるし、こだわりが強いから独占欲も強くなる。ハルはそれ以上に諦めがいいから『この人は自分だけのものになってくれない』『この人はダメだ』って思ったらすぐ諦められるんじゃない?」 『諦めもいい』……そこは確かにカナの言う通りだ。どこか期待している自分がいるのと同時に、どうせ無理だしってブレーキをかける自分もいる。だからいつも上辺だけの関係しか築けない。 今まで恋愛をしたことがないとはいえ、付き合ってみて何となくいいなって思った子は何人かいた。でも相手を知っていくうちに結局その『いいな』が自分の理想とズレているのに気づいて、その瞬間に相手に向けていた気持ちが冷めてしまう。相手に合わせて自分を変えるほどその人を想っているわけでもないし、無理に付き合うのはお互い時間の無駄だからと別れたくなる。それが俺の中で言うところの『飽きた』状態だ。 ずっとそういう風にしてきたから、初めから相手に期待することもなくなって、“来る者拒まず去る者追わず”の付き合い方をするようになってしまった。 「自分自身で咲く前の恋の芽を摘み取ってるんだよ。『この人なら大丈夫かな』って期待させてくれる人に出会えてこなかったから、そもそも独占欲を向ける相手がいなくて余計に拗らせちゃったんだろうね」 「……なんか難しいんだけど……」 「いつかハルのお眼鏡に叶う人に出会えるといいね。それかハルのこだわりを吹き飛ばしちゃうくらい魅力的な人」 「そんな人存在するのかな……」 自分で言うのもアレだけど、俺のこのめちゃくちゃ高い理想と強いこだわりを簡単に越えられる人がいるとは思えない。俺がまともに恋愛できる日なんてくるんだろうか。死ぬまでにちゃんとした恋の一つや二つくらいは経験しておきたいのに。 カナが言うように『魅力的な』例外が現れてくれるのをただ待つしかできないのか……。 独占欲とかこだわり云々を考えて黙り込んでいると、カナはもうこの話題は終わったと判断したらしく掃除を再開した。 その姿を眺めながら、始めの方で好きだとどんな気持ちになるのか話していたカナを思い出す。あんなにすらすらと出てくるってことは、カナにはそう思わせてくれる人がいるってことだよな……。過去の恋愛を思い返して言っていた感じでもなかったし、現在進行形でいる可能性が高いと見た。 「この人の全部を知りたい、誰にも渡したくない、って思わせてくれるような人かぁ……。そんな人…………」 ふと夏希のことを思い浮かべてしまったらもうダメだった。全部のピースが綺麗に当てはまっていくみたいに、あれこれ悩んでいたことが嘘のように理解できてしまう。 さっきの話は彼女とか普通のセフレ――つまり女の子を対象にして話していたけど、性別の壁を取っ払って考えてみれば例外なんてとっくにいるじゃないか。セフレだからとか、男だからとか、そもそも人を好きになったことがないから分からないだとか、無意識に認めたくなくてそんなことを言って自分で勝手に複雑にしすぎてたんだ。 カナから言われたことを整理すると『強い独占欲を向けられる相手がいないから、恋愛ができなかった』ってことにならないか。言い換えれば『独占欲を向けた相手のことを恋愛対象として見てる』というようにも考えられる。 俺じゃないキスマークを見た時、夏希を諦めるどころか余計手放したくないと思った。これってつまりそういうことだろう。

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