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引っ付いてくる彼方をあしらいながら夕飯の支度を進める。今夜のメニューはカルボナーラとコンソメスープ。家では料理担当らしい彼方も手伝ってくれて、分担したら三十分ほどで完成した。
男二人だしキッチンカウンターでいいやということになって彼方と並んで座る。家で誰かと一緒に飯を食べるのなんて久々過ぎて何を話したらいいのか考え込んでいると、彼方が何気ない口調で話しかけてきた。
「ねー、夏希。ハルも夏希ん家に泊まったことあるの?」
「……そういえば無いな。つーか、俺の知り合いが泊まるのって初めてかも。姉貴はよく友達と朝まで女子会やってたけど」
あいつとはそもそもヤる時くらいしか会わないし、いつも呼び出されて大体俺があいつの家に行ってたから。あいつ、友達の家にもあんまり行かないみたいだし、よく分かんない関係の俺の家になんて尚更来ないだろ。
「じゃあ俺が初めてだね。ふふふ、嬉しいなぁ」
「彼方の喜ぶ基準って低いよな」
「夏希に対してだけだよ?」
「…………あっそ」
俺の反応を楽しんでるような視線に恥ずかしくなって顔を逸らすと、頬にちゅっとキスを落とされた。何をするんだ、と隣を見れば何もなかったかのように食事を再開する彼方。……まったく、何なんだこいつは。普通にキスとかしてくるし。……あいつとはヤってる時以外は全然キスとかなかったな。別にはっきり割り切れてて良いんだけど。同じ顔でこういうことされると、なんか変な気分だ。
「…………調子狂うわバカ」
「ん?なにか言った?」
「何でもない」
無愛想にしか言えない俺を、彼方は特に気にする様子もなく別の話題に移った。お互いの共通の話っていったら学校のことかあいつのことくらいしかないけど、話上手聞き上手な彼方とは喋ってて楽しかった。
食後のデザートを食べるとき彼方も甘党だってことが判明して、今度一緒に新しくできたケーキ屋に行くことにもなった。
彼方と過ごす時間はゆったりとした心地良いものだった。
洗い物をしてから部屋に戻ると、先に戻っていた彼方がベッドの上でルルと遊んでいた。それを横目に勉強机に直行する。
「あれ、夏希。まだ寝ないの?」
「ん、ちょっと勉強してから寝る。先寝てていいぞ」
「真面目さんだねぇ。何の課題?」
「数学。一番苦手なんだよ」
この間あった期末テストで他の教科はまあまあできたけど、苦手な数学だけはイマイチだった。いくら参考書片手にワークやっても応用問題でつまずくからいつも点数が悪い。
問題を解き始めると隣に彼方がやって来て、広げてあるワークとノートを覗き込み、しばらく俺が問題を解いているのを見ていた。
「……夏希、ここ違ってるよ。こっちで出したxの値を使ってやってみて」
「え、まじ?……あ、できた!ありがと彼方!……彼方って数学、得意なのか?」
「得意ってほどでもないけど、まあ特進科だからね。それなりに」
「と、特進科!?知らなかった……」
あいつから別の学科だということは聞いたけど、特進科だとは思わなかった。俺ってあいつのことも彼方のことも、何にも知らないんだな……。いや、別に知りたいとか思ってるわけじゃないけど……。
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