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夏希と一緒に夕飯を食べて、洗い物も手伝おうと思ったら邪魔だから部屋に行ってろ、と一蹴された。泣く泣くルルちゃんと部屋で遊んでいると洗い物を済ませた夏希が来て、寝るのかと思ったら勉強するらしい。 偉いなぁなんて感心しながらルルちゃんを抱っこして夏希の隣に行くと、真剣な顔で数学のワークとにらめっこしていた。途中式の計算が間違ってることに気づいてないのか、いくら考えても答えが出ないらしい。 横から口出すのも迷惑かと思ったけど、夏希には悪いけどこんなやり方してたら効率が悪い。 「……夏希、ここ違ってるよ。こっちで出したxの値を使ってやってみて」 「え、まじ?……あ、できた!ありがと彼方!」 見かねてやり方を教えると、夏希は煙たがることなくその通りに解いてキラキラの笑顔でお礼を言ってきた。あ、やばい、今の笑顔キュンときた。 「彼方って数学、得意なのか?」 「得意ってほどでもないけど、まあ特進科だからね。それなりに」 「と、特進科!?知らなかった……」 すげぇ、と溢す夏希が可愛くて頬が緩む。というか、本当にハルから俺のこと何も聞いてないんだ。きっとハルのことだから、お気に入りであるこの子が俺に興味を持たないようにするためなんだろうけど。 残念ながら俺の方がこの子に興味持っちゃったから、ハルの努力は無駄になっちゃうね。 「な、なあ、彼方……」 「んー?なぁに?」 「実は他の教科でも分からないところがあって……。俺に勉強教えてくれないか……?」 「それって、俺とマンツーマンで勉強会したい、ってこと?」 顔を近づけて耳元で囁くと、夏希はビクッと肩を揺らした。どんな反応をしてくれるか楽しみだったのに、夏希は俯いて黙り込んでしまった。半ば本気で言ったけどとりあえず、冗談だよ、と取り成そうとして、あることに気づいた。 「ふふ、夏希くん、耳が真っ赤だよ~」 「わ、分かってるって!……彼方も忙しいだろうし、空いてる暇な日でいいから……ダメか?」 そんなに可愛く強請られたのに断るなんて俺には不可能だ。部活に入ってるわけでも塾に通ってるわけでもないし、外せるどうでもいい予定は全部切って空いてる日には夏希との勉強会を入れよう。すごく充実した夏休みになるだろうな。 「全然ダメじゃないよ。喜んで承りましょう」 「ありがとう、彼方。超助かる」 「俺も夏希と一緒にいたいしね。勉強会、いつから始める?俺、基本的に平日も空いてるし、学校の夏期講習がある日も午後からなら空いてるよ?」 「あー……俺、夏休み丸々空けてあるから、彼方の都合がいい日で大丈夫」 「空けてある、って何か急な予定でも入るの?」 『空いてる』じゃなくて『空けてある』ってことはまだ何も予定が入っていなくて、でも何かのために文字通り空けてあるんだろう。 「予定っていうか、いつ呼び出されるか分かんないから、いつでも行けるように空けてあるだけ。だから、夏休みはまじで何も予定入れてない」 「部活?」 「部活とかだったらまだ良かったんだけどな。俺、部活やってないし」 部活も違うんだったら何だろう。その時にならないと分からないなんて夏希からしたら迷惑だろうに、なんでそんな嬉しそうな顔してるんだか。 「……もしかして、彼女?彼女のために丸々空けるなんて、夏希くん優しいねぇ」 「それも違うって。彼女とかいないから」 茶化すように言ったけど彼女がいないってことは知ってる。夏希に彼女がいたらハルと何回もヤってないだろう。ハルは自分以外の相手がいる人には絶対に手を出さないから。 自分は複数人と関係を持つけど、その相手が同じようにしてたらすぐ関係を切る。そのルールはハルの中で何よりも優先されるらしい。まったく……変なとこでこだわりが強いんだよなぁ。 「とにかく俺はいつでも大丈夫だから、彼方の都合がいい時でお願い」 いつでも大丈夫なんて言われたら、空いてる時間全部を欲しくなってしまう。出会ってまだ一日も経ってないけど、俺は夏希のことが好きで、どんな些細なことでも知りたいし出来るだけ多く一緒に過ごしたいと思ってるんだから。

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