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「本当にいつでもいいの?」 「ああ。だから、暇な時は連絡してくれ――」 「じゃあ、全部」 「は?」 夏希は俺の言ってることが分からないようでぽかんとした。自分でも突拍子もないこと言ってるのはよく分かってるけど、でもこれは距離を縮めるチャンスだ。ストレートだろうが他に好きなやつがいようが、この夏休み中に絶対この子を落としてみせる。 「夏希が空いてる日を全部、俺にちょうだい。もちろん、ちゃんと勉強も教えるし、呼び出されたらそっち優先していいから。夏希と一緒に過ごしたい」 「え、あ、うん……いいけど……」 「やった、決まりね!」 約束を取り付けたらこっちのものだ、とハルみたいなことを考えながら笑うと、夏希に不審がってそうな視線を向けられた。応えるようにじっと見つめ返すと、すぐに交わっていた目線を逸らされる。ほんと可愛いなぁ。 「……でもせっかくの夏休みなのに、俺と過ごすことになるけどいいのかよ」 「それこそこっちの台詞だけど大丈夫?」 「俺は全然構わねぇよ」 「なら俺も構わないよ。むしろ一緒にいられることになって嬉しい」 赤く染まった夏希の頬にすーっと指を滑らせると、「あっそ」と素っ気なく流された。釣れないところも猫みたいで可愛い。無駄に絡んでこないし強請り方もあざとくないし、ハルも夏希のこういうところが気に入ったんだろうと容易に想像ができた。 「あ、そういえばまだ連絡先交換してないよね?……はい夏希、自分の登録して」 「わざわざ電話帳に登録すんの?めんどくさいからアプリで良くね?」 「俺あんまりアプリ開かないし通知も切ってるから。何かあったときすぐ気づけるように、一応そっちもお願い。ね?」 「……お、おう」 上手く言いくるめてアプリの連絡先だけじゃなく電話番号とメールアドレスも手に入れた。予想通り夏希は、自分のを登録したんだから俺のも登録しろと言ってきて、快く夏希の電話帳に登録する。 これが狙いだったんだよね。俺もそうだけど、今時の高校生はアプリが主流だから電話帳なんてスカスカだ。電話帳に登録してあるのなんて家族とかそれくらいだろう。ただわざわざ電話帳にも登録してある、っていう特別感に浸りたいだけ。 「ありがとう。これでいつでも連絡取れるね」 「ん、こっちもありがと」 「さて、連絡先も交換したしもう寝ようか。ほら、片付けて~」 「えっ、ちょ、勝手に片付けんな!わっ、下ろせっ!」 ぱぱっとワークとノートを片付けて夏希を抱えあげてベッドまで運ぶ。線の細い子だと思っていたけど案の定軽かった。壊れ物を扱うようにそっと下ろすと夏希が上目遣いで見上げてきたから、押し倒したみたいな感じがしてどぎまぎしてしまった。 そんなすぐ手を出したらハルと同じように軽い男だと思われてしまう。ここは我慢しないと……。我慢……我慢……。 「……彼方?」 「っあ、ごめん!寝ようね!」 俺の下で夏希が小さく身を捩った。我に返ってバネが外れたように勢いよく離れる。あ、危なかった……。 その気になってしまわないように自制心を総動員して、隣に寝転がって二人で一つのタオルケットをかける。シングルベッドに小さくもない男子高校生二人は予想通り狭かったけど、俺が夏希を後ろから抱きしめるようにくっつけば全然寝ることができた。クーラーがついてて丁度いいくらいなのに、夏希は「暑いから離れろ」とかぶつぶつ文句を言っていたけど、笑ってスルーしていたらそのうち小さな寝息が聞こえてきて眠ったようだった。

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