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顔に当たった何かのせいで目が覚めた。ふわふわしていて、時々ちくりと痛いそれを手で押し退けると、反対の指に痛みが走った。 「痛っ……何?」 何度も掌に刺さる何かを確認しようと瞼を開けば、柔らかそうな髪が視界を占めていた。 ……ああ、そうだ、昨日は夏希の家に泊まらせてもらったんだ。 俺は眠りについたときと同じ体勢で後ろから夏希を抱きしめていて、首をもたげて見てみると夏希の腕枕になっている手にルルちゃんがじゃれついていた。ざらざらした舌で舐めてきたり甘噛してきたり、どうやら構ってほしいらしい。 カーテンを閉めていてもルルちゃんがはっきり見えるくらいには部屋が明るくなっていて、壁にかかっている時計を確認すると時刻は六時を少し回っていた。夏希を起こさないように軽く撫でたり指を動かしたりしてルルちゃんに応えていたけど、しばらくして俺の手に飽きたみたいで、今度はすやすや眠っている夏希にターゲットを変えた。 「んん……るる、じゃま……」 毎朝こんな風にルルちゃんに起こされているのか、慣れているらしく夏希の反応は薄い。寝惚けながらもルルちゃんを退かそうとしている。ルルちゃんも構ってもらえないのを分かってるようで、横を向いて寝ている夏希の顔面に凭れるように寝転がって毛繕いを始めた。 ……ぴったりくっついてるみたいだけど苦しくないのかな? 「…………んん……、っはあ!死ぬ!もールル~、朝から何だよ~!」 案の定、息が苦しくなったらしく飛び起きた。それで完全に意識が覚醒したようで、夏希はこっちに背を向けたままベッドに座って、犯人であるルルちゃんと戯れ始めた。 えっと、このデレデレっぷりはいったい……。いつもルルちゃんの前ではこんな感じなのかな?……というか、真後ろにいる俺のこと忘れてない? 完全に二人……もとい一人と一匹の世界に入ってしまっている。俺のことなんか一切眼中に入ってないらしい。 「んー!ルル~今日も可愛いなぁ~」 「んなぁ」 「今日から夏休みだからな。いっぱい遊べるぞ~」 「……あの、夏希……?」 「あ?なんだ……よ……、うわぁっ!?」 ご機嫌なところに水をさすようで申し訳ないと思いながらも声をかけた。振り向いてやっと俺に気づいたらしく、夏希は心底驚いた顔をしていた。なんか……そんな反応されるとちょっと傷つくなぁ。 「夏希おはよう。ひどいなぁ、昨日泊まっていいって言ったの、夏希なのに……忘れちゃったの……?」 「おはよう!!忘れてねぇよ、覚えてるって!」 「じゃあ、『うわぁ』って何?」 「ちがっ、思ったより距離が近かったんだよ!ちょっとくっつきすぎじゃねぇの?」 そう言われても、狭いベッドではこれ以上距離を取れない。落ちたら危ないからと言って俺を壁側に寝かせたのは夏希だ。 「……つーかこれ、添い寝じゃん!」 「あはは、添い寝なんてありえないって言ってたのに結局しちゃったねぇ。俺は別に嫌じゃないよ?」 「あっそ!!」 さっきまでの可愛い表情ではなくむすっとした不機嫌そうな表情になった。俺は嫌だから、って跳ねのけないところが可愛いし、ぴょこっと跳ねた寝癖も可愛い。なんかもう全部が可愛く見えてくる。 大抵は睨んでるか眉間にしわがよっていてキツい目つきをしているけど、さっきみたいに笑ったり驚いたりしてキツさが取れると、本当は女の子みたいなくりくりの大きな目をしている。俺やハルとはまた違う中性的な顔立ちだ。俺たち双子はよく綺麗、美形って言われるけど、夏希はどちらかというと可愛いって感じ。本人に自覚はないみたいだけどきっと女子からモテてるんだろうな。あざとい夏希も絶対に可愛いけど、無自覚で天然な夏希も可愛いだろうなぁ。

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